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256 名前:1/2 投稿日:2005/09/19(月) 22:02:55
峰隆一郎の時代小説『流れ灌頂』という話。
(注:タイトルは『ながれかんじょう』と読む。この言葉にはいろいろな意味があるが、ここでは
 木の卒塔婆と白布でつくり川のほとりなどにたてる簡素なお墓のことを指す。
 この白布が乾いている間は死者が苦しみ続けるというので水をかけて布が濡れているようにする必要があり、
 また何かあって流されてなくなってしまったら魂が救済されたことになるという。)

相模の国のとある宿場に一人の浪人がやってきた。仕官の望みをとうに諦め諸国を放浪し、
時には食わんがために汚れ仕事を引き受け人を斬ったこともある、ごくふつうの無頼浪人。
名は飽浦十輔(あくら・じゅうすけ)という。話はこの十輔の視点で展開する。

さて、相模の宿場に入った十輔は町をぶらついているうちに気になる男を目にすることになる。
その男は宿場のはずれを流れる川のほとりに日がな一日座っていて、古びた流れ灌頂に水をかけ続けているのだ。
男の名は酉蔵(とりぞう)。彼は生まれつき心臓が弱く、力を出して働くことができないため
こうして川辺に座っているのだという。

しばらくして十輔は宿場の女のヒモのような形で町に居着くようになる。そうして鉄火場をのぞいたり
軽くゆすりたかりをしたりと非生産的な暮らしが続いたある夜、十輔は二人の男が抜き身の刃物を持って
向かい合っているのを目撃する。ひとりは酉蔵でもうひとりは浪人だった。浪人が刀を振り下ろし、
酉蔵が斬られたかと思われた瞬間、酉蔵は刃を紙一重でかわすと匕首の一撃で浪人を仕留めていた。
酉蔵は見切りの極意を身につけていると十輔の目には映った。

夜が明けてから十輔は酉蔵をたずねた。酉蔵はいつもと同じように川のほとりに座っていて、
新しい流れ灌頂が最初からあったそれの隣につくられている。ふたつの流れ灌頂に水をかけながら酉蔵が
話したところによると、昨夜の浪人は宿場の顔役の男に金で雇われて自分を殺しに来たのだという。
顔役は強欲で悪評が絶えない男だ。その男が酉蔵に異様な関心を持ち命を狙っているらしい。


257 名前:2/2 投稿日:2005/09/19(月) 22:04:54
それから十輔は酉蔵がなんとなく不気味に思えてきたのだが、しばらくして酉蔵と一緒に暮らしている
女が殺害される事件が起きた。酉蔵の命を狙う顔役一派の魔手が女にまで及んだと思われた。そして酉蔵は
顔役の男のところに乗り込んでいきこれを刺し殺した。連れ合いの仇を取り強欲な顔役を討ったという
ことで、酉蔵は一躍時の人となる。

だが真相は違っていた。十輔は顔役の取り巻きなどから前後の話を聞き、顔役の一派は酉蔵の女を
殺してはおらず、また顔役の男が殺された時も酉蔵に見切りがあることから一方的な殺害になったろうと
考えた。顔役の男を排除しその縄張りを疑われずに手に入れるため、酉蔵が顔役一派のしわざに見せかけて
何の関係もないどころか自分を慕っていた女を殺したのだ。そして幾重の嘘に固められた酉蔵のたくらみは
着々と成功しつつあるように思われた。十輔はついに酉蔵を斬る決意を固める。

十輔がいつもの川のほとりに出向くと、酉蔵はいつものように川べりに座っていた。流れ灌頂が三つに
ふえている。十輔は酉蔵に自分の考えをぶちまけた。それを聞いた酉蔵は十輔の考えが正しいと認め、
あんたは頭が切れるから俺と組まないか、ともちかけた。だが十輔はこれを蹴って刀を抜いた。酉蔵も
匕首を抜いて立ち上がった。折しも太陽の強い日差しが地面に照りつけており、心臓の弱い酉蔵はじきに
ぶっ倒れる、と思われたのだが、酉蔵はいつまでたっても平然と立ち続けていた。心臓が弱いと言って
いたのも酉蔵の嘘だったのか、と十輔は愕然とする。そして意を決して斬りかかったがその一撃は
かわされ、次の瞬間十輔の胸に匕首が深々と突き立っていた。やはりだめだったか、と十輔は思い、
自分が四つめの流れ灌頂となって川のほとりに立つ光景が脳裏に浮かんだのを最後に意識が暗転する。

…という流れなんですが、一番悪辣な香具師が平然と生き残っていてカタルシスが得られませなんだ。
ああ後味悪い。


258 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/09/19(月) 22:07:42
そっかな
十輔とか言う奴がこそこそ嗅ぎ回るダニだっただけでは。
抜き身の達人がどんくさいふりして
よそものや馬鹿から村を守ってるみたいでカッコイイ

260 名前:256 投稿日:2005/09/19(月) 23:00:19
あと投稿した後で思い出したのだけど
見切り達人の酉蔵は元来が流れ者で宿場の人別がない、つまり町の住人として正式には認められていません。
よそものが人別をもらって住人として認められるのは難しいのですが酉蔵は人別を欲しがっている様子。
んで女殺しの罪を顔役に負わせて刺したのが奏功して町人たちが酉蔵に人別やってもイインジャネな雰囲気になってきます。
そういうわけで酉蔵は利益のためにこともなげに他人を切り捨てられる冷酷な性格が本性、みたいに描写されていて
それがラストの後味悪さにつながってくるワケです。後出しスマソ。

263 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/09/20(火) 00:16:32
頭がキレるから手を組もうって発言が後味の悪さにつながるな

264 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/09/20(火) 00:19:24
その発言出た時、もしかしてトリゾウは自分の業を憎んでわざと殺されようとしたのかも、って思った。
けど、普通に勝つんだね。

266 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/09/20(火) 00:30:39
一つ目の墓は誰なのか気になるな。
もしや名前すら誰かから奪ったんだろうか。

267 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/09/20(火) 00:39:01
>>260
利益のためにって…
その町か村に酉蔵は根をおろしたいわけでしょ。
どんな過去があるかは知らないけど、少なくともゆすりたかりとか女犯すとか子供殺すとか、盗みするとか、
そういう嫌なダニみたいなことはせず、馬鹿な、おとなしい身体の弱い人間として生きていたわけだよね?
そんな中、考えて、人別、つまりはグリーンカードをもらうために、悪い元締めをやっつけるとか<いろんな村のためになることを
やろうとがんがってるのじゃまいか。
それを現在ダニ稼業やってる人間つまりおせっかいな十輔が、過去をいろいろほじくりまわして
いったいどうしようと思ったわけ?
また流れ者として出て行け、と責め立てたかった訳?
しかも立会いで負けてやんの。馬鹿か、ざまみろと思った。
後味(*´д`*)キモチイイーだよ

 

流れ灌頂 (集英社文庫)
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