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723 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/06(火) 18:31:43
消化器つながりで、海野十三の短編「生きている腸」。

 医学生の吹矢は、刑務所病院から、死刑囚のものだと言う人間の腸をもらい受ける。
(もちろん普通なら犯罪だが、吹矢はそこの外科長の弱みを知っているらしい。)
ガラス管の中でリンゲル液にひたされた100センチばかりの腸は、
切ったばかりらしくまだ、ぜん動をしていた。
変わり者で、周囲からバカにされてると思っている吹矢は、
この腸をつかってスゴい研究論文を書き、世間をアッと言わせるつもりなのだ。
部屋に設備をととのえ、日々観察記録をつける吹矢。
ある時から吹矢は、リンゲル液をだんだん薄くし、水に近づけ始める。
液はやがて完全な水となり、ガスに、そして空気に。
こうして吹矢は恐るべき忍耐の末、世界初の「大気中における腸の生存実験」に成功する。
吹矢は腸にチコと名を付け、部屋に放してやる。食物は砂糖水。
チコは驚いた事に、知能も身につけて来たらしく、吹矢と遊んだり、
空腹になると砂糖水をねだったりするようになる。
この研究の発表で、吹矢が一躍有名になるのは間違いない。
チコとの生活も楽しく、幸せな日々を送る吹矢だった。


724 名前:723 投稿日:2005/12/06(火) 18:32:49
実験にあけくれて、季節はいつしか冬を迎えようとしていた。
ある日吹矢は、今年の冬はチコと一緒なので、良いストーブを買ってこようと
思い立つ。チコに美味しいスープなども食べさせてみようなどと考える。
チコに砂糖水を置いて、彼は百数十日ぶりに外出する。
刑務所病院の外科長を訪ね、じきに研究を発表することになるが、
何という囚人のものかを知りたいと訊ねるが教えてくれない。
その時、彼は病院の若い女交換手の事をきいてみる。
密かに気にしていた相手だったのだが、盲腸で死んだという。
ちょっと驚くが、別に死んだ者には興味はない吹矢だった。
さて外出してみると、町には忘れていた楽しいことが多く、
彼はウッカリ8日も家を空けてしまう。もうチコの砂糖水は無くなってるはず。
だが外の世界にひたった吹矢は、もう論文の資料はたっぷりあるし、
別にもうチコが死んでも構わないと思ってしまう。
部屋の鍵をあけると、カビ臭にまじって、ぷんと女の体臭がしたように思った。
おかしいな、と砂糖水をみると、まだ半分も残っている。
チコは死んだのか、もしくは逃げたのか?
その時、吹矢の目の前に、太いステッキのようなものが、奇妙な声を上げて
びゅーっと飛んでくるや、首に巻きついた。それは猛烈な力で吹矢の首を締め上げる。

725 名前:723 投稿日:2005/12/06(火) 18:33:32
半年後、家賃を催促に来た大家が、吹矢の死体を発見した。
その死因は不明のまま。吹矢の研究資料も、チコも、消え失せてしまった。
別に誰も吹矢の死を気にしたりはしなかった。
ただ、刑務所病院の外科長が、密かにその死を喜んでいた。
外科長は吹矢におどされて囚人の腸を求められたが、手頃なものがなかった。
その時、ちょうど女交換手が盲腸になり、それを外科長が執刀。
だが交換手は死に、彼はその腸を取り出してしまったのである。
だが外科長は、吹矢が交換手の腸で、驚くべき実験に成功していたことも、
その腸が吹矢を殺したことも知らなかった……。
だがチコは、決して吹矢を恨んで殺意を持っていたわけではなかったのである。
むしろ、チコは彼に、深い愛情を持ってしまっていた。
帰らない彼を心配して食欲もなくなっていたところ、
帰宅してくれた嬉しさのあまりに飛びついて、不幸にも絞め殺してしまったのだ。
情の深い女性の腸の気持ちに気づかなかった、医学生吹矢の不運であった。

愛する彼氏を自分で殺してしまったチコが、
その後どうなったか書かれてなくて、
犬に食べられちゃったり、どこかでひからびちゃったのか、
と考えると可哀想。吹矢も最後の最後で浮き世に戻る辺、
やっぱり俗物じゃん、て感じで後味悪い。

 

十八時の音楽浴 (ハヤカワ文庫 JA 73)
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(ハヤカワ文庫 JA 73)


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