穴熊(藤沢周平)

794 名前:1/3 投稿日:2008/02/03(日) 02:44:27
藤沢周平の時代小説「穴熊」
この人の短編はけっこうな確立で後味悪い

主人公の博打打ち、浅次郎はかつて恋仲だったお弓という娘を探している。
彼女は浅次郎に何も知らせず莫大な借金を抱えた両親と共に夜逃げしたのだが、
まだ江戸のどこかに潜んでいるのではないかという希望を持っていた。
二年ほどの月日がたち半ば諦めていた浅次郎だが、思わぬところで消息を聞く。
素人の女を自分の家に送らせて客の男と引き合わせ金を稼ぐ、淫売宿のようなものを営む赤六という男が
お弓らしき女が送られてきたことがあると言ったのだ。
しかし赤六も、女を赤六の元へ回した人間もその女の詳しい素性は知らなかった。
ふて腐れる浅次郎に、赤六は二階に来ている女を抱いていけという。
二階の女もお弓に少し似たところがあるという赤六の言葉に興をそそられ、浅次郎は女を買うことにする。

無口な女だった。怯えを含んだ落ち着きのなさが、女が家の者に内緒で来ていることを伺わせた。
終わって出て行くとき、女はきちんと座って「ありがとう存じました」と手をついた。
(武家の女だ)と浅次郎は思った。おそらく余程の事情があるのだろうと気が滅入り、後味の悪い思いが残った。


796 名前:2/3 投稿日:2008/02/03(日) 03:15:03
お弓に似たその女を忘れられない浅次郎は、前の娘は諦めてその女に乗り換えるのか、などと
笑われながらも女の素性をつきとめる。
女は塚本という浪人の妻女であり、難病もちの5才の男児がひとりいた。
必死の内職も追いつかず、薬代が払えず苦しむ夫婦のあり様を知った浅次郎は
塚本を道で呼びとめ、もうけ話を持ちかける。
浅次郎はある賭場が穴熊といういかさまをして儲けていることを知っていた。
その賭場主を強請って金を出させようというのである。
浅次郎の見るところ塚本は穏やかな目をした生真面目そうな男であり、
誰とも知れない無頼が持ちかける話など一蹴されるかもしれないと思っていたが、
金に困っていた塚本はすぐに承知した。
塚本は度胸があり剣術も上手かった。
帰り道に賭場主の差し向けたごろつきと斬り合ったりしながらも、二人は五十両という大金を手に入れた。
山分けにしようという塚本の提案を断り、浅次郎は一割の五両を手にして塚本と別れた。

半年ほど過ぎたころ、浅次郎は久しぶりに赤六の家を訪れた。
そこで例の女が今では一番の売れっ子になっていると知りひどく驚く。
その女はふた月ほど姿を見せない頃があったが、近頃はたいへんな稼ぎっぷりだという。
浅次郎は塚本との一件のすぐ後に、妻女が身売りをやめたことを確認し
(そうとも。あの人はそんなことをやってちゃいけねのさ)と深く安堵していただけに、衝撃はひとしおであった。
どういう仕掛けになっているのかと混乱しながら、赤六に頼み女を呼び寄せ、抱いた。


797 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/03(日) 03:19:30
産業で

798 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/03(日) 03:31:38
>>797
・前号までのあらすじ
売春宿で買った貧乏侍の奥方に惚れこんでしまった浅次郎は、女の不幸な身の上
を救ってやろうと決意する。豪傑・塚本と危ない橋を渡り大金を得るが、久々に出会った
彼女は一人前の売春婦になっていた……。

799 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/03(日) 03:35:28
>>798

把握した

802 名前:3/3 投稿日:2008/02/03(日) 04:18:21
浅次郎は女の後をつけていた。夜具の中で娼婦のように乱れた女をまるっきり淫売だと腹立たしく思い、
亭主はどうするのだ、子供はどうなったのだと一言女に問い質さずにはいられない気持ちだった。
足音に気づいたように振り返った女はそのまま動きを止めた。つられて立ち止まった浅次郎の脇を追い越した
人影は女の上に白刃を振り下ろした。塚本であった。
殺すことはなかったのではないか、むごいことをすると言い募る浅次郎に、これはわしに斬られる日を待っていたのだと
塚本は言った。これのしていることには薄々気づいていた、そんなときにあの金が入った。
子供の具合はよくなって、近頃は医者もいらないほどだった。すべて終わったと思っていたが
これは夜の町に出るのを止めようとしなかった。
「これはもう、わしの妻ではなかった。だがこうして漸くわしの手に戻ってきた。これでよい」

放心したまま歩いていた浅次郎は、いつしか御命講の人ごみに巻き込まれていた。
そのまま寺の門前に運ばれ、人の行き来をぼんやり眺めていた浅次郎の目はふと一点に吸い付いた。
若い男の腕に縋ってこっちに歩いてくる女は、確かにお弓に違いないと思われた。
手を伸ばせば触れる距離を、お弓はゆっくり通り過ぎた。
浅次郎は動かずに、だだ一瞬、その女の横顔に塚本の妻女の面影を重ねてみただけだった。

わりと夫婦にも浅次郎にも好感が持てただけにこんなオチかよ!みたいな。

 

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