少年探偵・岬一郎/毒蛾館(楳図かずお)
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823 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/02/14(火) 18:08:09
- 楳図かずおの貸本時代の短篇集「少年探偵・岬一郎」を読んだんだが、
その中の「毒蛾館」てのが後味悪かった。
少年(キャラ的には青年)探偵の岬は、ある日、道で倒れていた老婆を助ける。
彼女が向かっていたのは、「毒蛾館」。
それは、毒蛾がたくさんいる事から名付けられた廃墟の洋館だ。
老婆は長い白髪に乱れた着物で、一見、普通ではない。
何度も館に来ているらしく、蛾の毒で顔がみにくく腫れている。
岬が館まで老婆を運ぶと、老婆は、死んだ夫に会いに来たという。
夫はたった1本のローソクのために死に、今でもローソクの火を待っているという。
興味を持った岬は、夫がいるという「石の部屋」までついていく事にする。
途中の部屋や廊下は荒れ放題。白骨死体までころがっている。
その部屋は、地下の一番奥にあった。
老婆がガラガラと石の引き戸を開けると、
そこは六面を石壁にかこまれた、何の家具もない部屋。
だが、正面の壁の手前の床には、大きなロウのカタマリが見える。ロウソクが
何度も継ぎ足されたらしく、てっぺんでは短くなったロウソクが燃えている。
そしてそのすぐ左の床には、肘から先の白骨化した右手が落ちていた。
老婆は、持ってきたロウソクを新たに継ぎ足すと、昔語りを始める。
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824 名前:823 投稿日:2006/02/14(火) 18:09:27
- もうずっと昔、彼女は若妻として館に迎えられ、夫と幸せに暮らしていた。
だが夫の弟二人は悪党で、兄の財産を狙っていた。
嫁は邪魔とばかり、彼女はいやがらせをされ、命まで脅かされる。
その時、夫は彼女を連れ、この地下の部屋にやってきた。
手にはローソク1本のみ。
ここには夫しか知らない秘密の部屋があり、開く方法は夫しか知らないという。
見る見る正面の壁に大きな入り口が開く。それに驚いた彼女は、
その時、夫がどういう捜査で開けたか見逃してしまった…。
扉は一定の時間が来ると閉まる。ローソクの火をたやさず、
閉まり始めたら教えるよう指示すると、夫は一人、扉の奥へ。
奥のには宝があり、用心のために毒の蛾を飼っているらしい。
たたずんで待つ彼女…だが一陣の風が、ロウソクの火を消しかけてしまう。
必死に、炎を守り、元のように燃え立たせる彼女。が、
ふと気づくと、扉がもう人は通れない程の幅に閉まりはじめていた!
大声で夫を呼ぶ彼女。慌てて出ようとする夫。
その身体がどんどん石壁に潰されていく…。悲鳴の止まらない妻に、夫は
最後に「部屋の真ん中のあれを早く…」と言って力つきる。
僅かなすきまから、舞い出る一匹の蛾。そして岩壁はきっちり閉まり、
夫の右手だけが、ちぎれて床に落ち、白骨化していったのだった。
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825 名前:823 投稿日:2006/02/14(火) 18:10:24
- 彼女はその後、「部屋の真ん中のあれ」を探したが、
部屋の真ん中には今にいたるまで、何の仕掛けも見つけられずにいる。
事件の後、二人の弟は彼女を追い出し、館の主に収まったのだが、
不思議な事に、地下から一匹だけ逃げ出した蛾が何匹にも増え、
弟たちは毒のために死んでしまった…。
彼女は空き屋となった毒蛾の館に、それからも通い続けた。
「あの時ロウソクさえ消えかかったりしなければ…」
地下のロウソクの火を絶やさないため、何年も。そして年老いたのだった。
だが聞き入る岬一郎に、老婆は嬉しそうに言う。
ついに奇跡が起こった。夫はそこにいる。また夫に会えるようになったと。
見ると、長年燃え続けたロウソクのススが、壁に人影のようなものを造っていた。
それは、確かに人の姿に見えた。老婆は夫にそっくりだという。
そしてその人影には、右手首がなかった。
恐怖に襲われる岬。そこへ、沢山の蛾が集まってくる。
逃げる岬の目に、蛾の群れの奥で夫の影にすがる老婆の姿が見えた。
「私は残る。夫と二人で、いつまでもいつまでもここにいる!!」
最後まで老婆を呼び続ける岬。だが蛾に追われ、ついに部屋の外へ出た。
こうして、石の部屋の扉は永遠に閉じられたのだった。とにかく、いろんな謎残しすぎ。手がかりもなく、
岬ってこの事件では何もできずに終わってしまう。
情緒ホラーっぽいのだが、とにかく気分的にモヤモヤしたまま。後味悪し。