ホーム » 小説 » 小説/か行 » 子供の領分(菅浩江)

291 名前:1/6 投稿日:2006/06/03(土) 15:12:50
菅浩江の短編。

孤児院に引き取られた主人公は天才児だった。
しかし、主人公は過去の記憶が何もない。名前も親の顔も覚えていなかった。
ただ一つだけわかっている事がある。主人公は仲間の役に立ちたかった。

孤児院には数名の仲間がいた。自分を軍人だと信じているガキ大将、
優れた頭脳を持つ秀才児、バレリーナを夢見る少女。
彼らはみな何らかの障害を抱えていた。ガキ大将は身体がうまく動かず、
秀才児は情緒に問題があり、少女は精神薄弱だった。
それでも主人公は彼らを愛し、大切にしていた。


292 名前:2/6 投稿日:2006/06/03(土) 15:13:21
ガキ大将が戦争ごっこをはじめれば彼が飽きるまで付き合った。
秀才児のプライドを傷つけないよう、常に彼より劣る成績を取り
細心の注意を払って気づかれないよう勉強を教えていた。
夢見る表情の少女とたくさん花を摘んだ。
先生も彼の行動を喜んだ。先生は妊娠していて、あまり動けないのだ。
先生の代わりに皆の面倒を見る主人公に、先生は感謝する。

全てが主人公には幸福だった。
時折、そんな主人公の生活を非難する人が現れる。
君は天才だ、もっと自分を生かせる環境に移るべきだ、障害児達の面倒を見てどうする、
そんな世話は他人に任せればいい。そうやって主人公を誘ってくる。
主人公は全ての誘いを断った。彼は孤児院で仲間に尽くす事に喜びを感じており、
広い世間に出て自分を伸ばす事には魅力を感じなかった。


293 名前:3/6 投稿日:2006/06/03(土) 15:13:53
ある日、孤児院に異変が起こる。不審な人物がうろついているらしい。
不安そうな先生に代わり、主人公は孤児院の見回りをする。
そして事件は起きた。誰かが孤児院を襲ってきたのだ。
主人公は盾になってでも皆を守る決意をする。

「ガキ大将を殺せガキ大将を殺せ」どこからか声が聞こえる。
敵の狙いはガキ大将だ。彼らはガキ大将の命を狙っている。
主人公はガキ大将を連れて逃げ出す。ガキ大将はうまく走れず、何度も転ぶ。
ガキ大将を支えながら、二人は山小屋へ転げ込んだ。
「もういいよ。お前だけ逃げてくれ。俺はどうせ軍人になれないんだ。こんな身体だから…」
諦めるガキ大将を主人公は必死になって励ます。


294 名前:4/6 投稿日:2006/06/03(土) 15:16:00
その時声が聞こえた。「殺せ殺せ殺せガキ大将を殺せ」
主人公は周りを見回す。誰も見あたらない。
「今の声を聞いた?」「何も聞こえないよ」
この声はガキ大将に聞こえていない。主人公だけに聞こえているのだ。
主人公は悟った。敵とは自分だ。
ガキ大将の命を狙っているのは、頭に響く声に従った自分なのだ。

最悪の状況になった。彼とガキ大将は二人きりだ。
ガキ大将は一人では走れない。逃がす事も出来ない。
「殺せ殺せ殺せ…」頭に響く声に、必死で主人公は抵抗する。
ガキ大将は不安そうな目で彼を見る。「大丈夫か?」心配したガキ大将が主人公に近づいた。
いけない!思ったが遅かった。主人公の身体は、彼の意志を無視してガキ大将に襲いかかる。
首を絞める手を必死で押しとどめる主人公。頭の声はやかましいくらい響いている。
「嫌だ嫌だ嫌だ!殺したくない!」
彼は勝った。頭の声は唐突に消えた。


295 名前:5/6 投稿日:2006/06/03(土) 15:16:33
「おめでとう!」突然山小屋の中が明るくなった。
目の前に主人公を孤児院に連れてきてくれた医者がいる。
主人公は何が何だかわからない。
「よくやったね。君は素晴らしい。ああ、お前はもういい。停止しなさい」
床でもがいていたガキ大将に向かって医者は命令する。ガキ大将の動きが止まった。

主人公は思い出した。そうだ、この医者は医者ではない。科学者だ。
ガキ大将や秀才、少女、先生を作った科学者だ。そしてこの僕も。
科学者に連れて行かれた部屋には、秀才、少女、先生もいた。みな機能が停止している。

「この課題はとても難しいものだったんだ。ロボットは命令に逆らえない。
とくに制作者の命令にはね。けれど、それではいけないんだ。
命令に従うだけでは人に危害を加える可能性がある。
通常時は命令に従い、倫理に触れる命令が出された時には抵抗する意志が必要だ。
君は見事その課題に答えた。殺せと言う命令に、仲間を守りたい意志が勝ったんだ」


296 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/03(土) 15:17:33
仲間を守りたいと思った気持ち、孤児院で幸せに暮らした気持ち、
世界に出て活躍するより人の役に立ちたいと思った気持ち、
それは全てプログラムされたものだ。
ガキ大将が軍人になりたかったのも、
秀才が科学者を目指したのも全てはプログラムされた結果だ。
少女は憧れたバレリーナにはなれず、先生は赤ちゃんを抱く事はない。
そんなプログラムは存在しない。

「これで次の課程に進める。次のNO279号もお前ほど優秀だといいんだが。さあご苦労だった」
主人公の機能は停止した。

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3回投稿しただけで連続投稿規制に引っかかって後味ワルス。

 

五人姉妹 (ハヤカワ文庫JA)
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