ホーム » 小説 » 小説/あ行 » 奥能登の塗師(水上勉)

616 名前:1/2 投稿日:2006/06/25(日) 22:05:45
北陸の輪島塗の師匠の家が舞台。
師匠っていうのは焼き物でいうと窯元みたいな感じで、
漆器工というのか、沢山の弟子たちが働いていた。Aはそのうちの1人。
やがて彼はこの家で女中奉公をしているB子と恋仲になる。
師匠も腕の良いAと、田舎娘であるが気立てよく美人のB子との仲を認め、温かく見守っていた。
ところが。

ある日のこと、京都の大きな寺から大量のおわんの注文が入る。
お寺で大きな催しがありそれに使うとのこと。京都からはその担当の僧侶が、
「実際に作っているところをみたい」と作業場見学にやってくる。
大量注文のクライアントとあって、師匠側は下にもおかぬもてなしをし、
僧侶は輪島塗の技術に感嘆するとともに、もてなしに大満足して帰っていった。
接待の担当はB子だった。ここでいやな予感。

京都の僧侶から、B子を嫁に欲しいと言ってきた。
師匠は、大口顧客からの申し出を断ることができず、
B子に「こんな田舎の漆器工の嫁で終わるよりも」と言い含め、2人の仲を裂き、
B子を京都に嫁にやってしまう。A大ショック。

やがてAは、B子のことを忘れたいためか、狂ったように仕事に打ち込むようになる。
塗り物の仕事は、いくつかの工程を何人かで分担して作っていくのだが、
Aは皆が寝静まったあとまで1人で作業をし、例の大量注文のおわんは
Aがほとんど1人で製作したようなものだった。
師匠は「いつまでも女のことを引きずらず仕事に燃える、それでこそ男」とAを褒めた。


617 名前:2/2 投稿日:2006/06/25(日) 22:06:25
やがて納品された大量のおわんを使って京都の寺で大イベントが開催された。
食事の場に出されたみごとな輪島塗のおわんに目をみはる客たち。
例の僧侶は大いに面目をほどこした。かに見えた。

宴会が終わり大量のおわんを洗おうと、応援の僧侶たちがおわんをお湯につけたとたん、
漆器のうるしがはげて流れ出した!
すべてのおわんのうるしが剥げ落ちおわんは無残な姿に。
「これは欠陥製品だ!」 「担当者はだれだ?」
「おのれ、担当者め、寺に恥をかかせおって」「代金をピンはねしてふところに入れ
漆器製作者にわずかな金しかわたさなかったのであろう。だから欠陥品を押し付けられたのだ」

例の僧侶は弁明も許されず、宗派のなかでもド田舎の破れ寺に飛ばされてしまう。
屈辱に耐え切れず、彼は精神に異常をきたす。妻B子はいたたまれず、
行方をくらましてしまう。

B子の消息がわかったのは数ヶ月のち。和歌山、那智の滝で心中死体として発見された。
心中の相手はAだった。


620 名前:616,617 投稿日:2006/06/25(日) 22:28:08
水上勉のオムニバス「那智滝情死考」にある話です。
たしか3話くらいあってその最後の話が↑。
どの話も、那智の滝で男女の心中死体があがった… という描写で始まり、
その男女のプロフィル、なぜ心中に至ったかを倒叙で語っていくという形式になっています。
(那智の滝をご神体とする神社の宮司さんが調査して書き残した、という体裁になっています)
上記では、「心中しました」と先に言ってしまうとスレの性格上、面白くないため伏せて書いてみました。

作中ではB子が家出後、どのようにして輪島に舞い戻りAと再会したのか、
この2人が心中という決断をしたのはなぜなのかということは書かれていません。
そのあたりの描写が省かれているのがかえって哀れを誘う感じです。
ただ、この2人にもう帰る場所はないんだなということが理解できるだけで…


622 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/25(日) 23:16:49
>>616-617
>「おのれ、担当者め、寺に恥をかかせおって」
>「代金をピンはねしてふところに入れ 漆器製作者にわずかな金しかわたさなかったのであろう。
>だから欠陥品を押し付け られたのだ」

Aとグルなんじゃないかってぐらいひどい決め打ちだな。
実際には宴会終了後だから対外的には恥かいてないし、作ったところにねじ込むのが先だろうと思った。
(応援の僧侶は身内みたいなもんだろうし)
ひょっとして担当者が誰かから疎まれてるような前フリがあったのかな?
それならまだ分かるけど。


624 名前:616,617 投稿日:2006/06/25(日) 23:34:52
>622
漆器の師匠の家から嫁をもらった(B子)ため、
師匠と癒着しているのではないかと疑われたと作中にはあり。

水上氏の他の著作も後味悪系多数ですが、その中に「同じ宗派といっても一枚岩ではなく
絶えず派閥争いや他人を蹴落として宗派内でのステップアップをねらう」話も多いので、
応援の身内と言えど、弱点をさらすなんてという考えもあったのかも知れませんね。


625 名前:616,617 投稿日:2006/06/25(日) 23:38:27
それから漆器の師匠も作品が欠陥との噂が広がり
店(?)を閉めなければならなくなった(だからAの行き場がなくなった)とあります。

話の要約上、イベント担当僧侶の出番を増やしましたが、実際にはせりふもあまりなく、
どちらかといえば、大口注文に目がくらんだ漆器師匠のあこぎぶりが目立っていました。


626 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/25(日) 23:43:01
>>624
なるほど、そういう組織のドロドロしたものも有りな作風なら納得。

しかし、そこまでするなら最初からBを連れて駆け落ちすれば良かったのに。
しがらみもあるだろうけど、結果、師匠の顔に泥を塗った挙げ句、
自分は心中(Bからすれば半ば無理心中)、担当者は発狂だもんなあ。

まあ成り行きもあるだろうし、Aみたいな真面目な職人はそういうときに破滅的な
行動に行きやすいのかもしれないけど。

 

那智滝情死考 (1964年)
那智滝情死考 (1964年)


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