野ばら(小川未明)

371 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/27(日) 22:04:38
童話作家、小川未明の「野ばら」という作品。

隣接した大きな国と小さな国のとある国境には、
それぞれの国の軍人が一人ずつ配属されていた。
大きな国の側には老軍人が。小さな国側には青年軍人が。
最初はお互いを監視していたものの、うら寂しく退屈な国境のこと。
次第に言葉を交わすようになった二人は、そのうちに仲良く将棋を指すような間柄になる。
のどかで平穏な日々。国境の近くには野ばらが繁っていて、花の時期にはみつばちがぶんぶんと舞い踊る。
そんなある日、大きな国と小さな国が戦争を始めてしまう。敵味方の関係になってしまった
二人は戸惑いを覚え、大きな国の老軍人は「私はどうせ老い先短い。首を取って手柄になさい」
などと小さな国の青年軍人に告げる。青年軍人は頭を振って
「どうしていまさら貴方を殺せるでしょうか。私は最前線に行きます」と行って激戦区に旅立つ。
一人残された老軍人は、あの青年ははたして無事であろうかと案じながら日々を過ごしていたが
やがて大きな国が小さな国を制圧し、小さな国は滅びてしまったという連絡を受ける。
青年の安否を気にしつつぼんやり国境に佇んでいた老軍人は、うとうとと居眠りを始める。
夢うつつの中、老軍人が人の気配に気付いて顔を上げると、丁度小国の軍隊が整然と、
声一つ上げずに行軍してくるところだった。しかも、列の先頭にはあの青年軍人の姿が。
呆然とする老軍人の前、青年は黙礼をしてそれから野ばらの香りを嗅いだ。
思わず彼に何かを言おうとした瞬間に老軍人は目を覚まし、それが夢であったことを知る。
その後、やがて野ばらは枯れてしまい、老人は暇をもらって故郷に帰った。

有名な「赤いろうそくと人魚」もそうだが、この人の書く童話はやけに物悲しくて
やるせないオチが多い。いや、綺麗な話も多くて好きなんだがね。

 

小川未明童話集 (新潮文庫)
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