過去を運ぶ足(阿刀田高)

312 名前:1/2 投稿日:2007/01/10(水) 01:56:45
便乗して阿刀田高 「過去を運ぶ足」

妻の父親が亡くなった。原因は心臓発作だったが、夫はその死に一抹の疑問を抱いていた。
若い夫婦の周りには、ここ数年不幸な出来事が続いていた。

夫は父を早くに亡くし、病弱な双子の弟もまた幼くして亡くし、母と子二人だった。
妻もまた母を亡くしており、父と二人。お互い家族の少ない身の上だった。
数年前、まだすべてが順調だった頃、四人は一同に会して、
妻の父の行きつけの料亭で彼の誕生日を祝ったことがあった。
二人の親は孫を待ち望み、夫婦もまたそれを望んでいた。
妻の父は知り合いの大学病院の婦人科を紹介しよう、と若い夫婦に世話を焼こうとしてくれた。
ところが父の心配をよそに、妻はその後すぐに懐妊した。

それからしばらくして、事件が起こった。
夫が母と妻の待つ家に帰ると、母は室内で不自然な姿勢で眠り、妻の姿がなかった。
家中探すと、妻は全裸で水の入った湯船に浸されて、やはり眠っていた。
夫が救急車を呼び、二人とも命に別状はなかった。
その朝配達された牛乳に睡眠薬が混入されていたらしい。犯人はわからずじまいだった。
そして、妻は水に数時間浸かっていたために流産をした。
その三ヵ月後、突然夫の母が交通事故で死んだ。横断禁止の道路を横断しようとして事故にあった。
そしてその傷が癒えぬ内に、妻の父が死んだという知らせが入ったのだった。


313 名前:2/2 投稿日:2007/01/10(水) 01:57:37
義父の葬儀で納棺を行うとき、夫は義父の足首側を持った。
そのとき、夫はただごとではない恐怖を何故か感じた。それは彼の心から消えることがなかった。
「おまえの足、変な格好だな」
そう言ったのはまだ子供の頃の彼だった。言われたのは、体質も顔もどこも似ていない双子の弟だった。
弟の足首から先は扇形のとろろイモのように幅が広く、扁平で、指先も横一線にそろっていた。
めったに見ることのない、特徴的なその足を、彼は義父の足首を持った瞬間に思い出した。
「あ、これは死んだ弟の足だ」

四人で会食をした料亭の女将が、母と義父が二人で話していたときのことを覚えていた。
義父が孫ができないことを残念がり、不妊についてとても詳しかったので女将は何故か尋ねたのだ。
義父は、「学生の頃に医学部の手伝いをして、大切なものを提供したのだ」と答えたという。
義父は人工授精の精子提供を行っていたのだ。
夫の実父は戦時中、外地でマラリヤにかかったことがあるという。もしかしたらそのとき、
実父は子供の作れない身体になったのではないだろうか。
義父の話を聞き、あの日和服を着ていた義父の足を母は見たのではないだろうか。
そして妻が妊娠した。母は異母兄弟の間で生まれる医学的劣性児の出生を危惧したかもしれない。
睡眠薬を持ったのは母では?母が妻を浴槽に入れたのか?そしてその罪の意識で、母は死を選んだのか?
過去が、おぞましい姿で今に戻ってきた、あの扁平な足が、ペタペタと足音を立てて。

初七日を終えた頃、義母も父も我が子も亡くしやつれた妻が、夫に無理に笑顔を作って見せた。
「たった一つだけ、いいことがあるの。赤ちゃんができたみたい。お父さんの身代わりみたいね」
妻の顔を見て、夫は呻いた。
「そうか。それはよかった」


317 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/01/10(水) 07:06:24
>>313
読解力のない自分に解説をくれ。。。
妻が最後に妊娠したモノは一体なんだったんだ?

318 名前:2/2 投稿日:2007/01/10(水) 07:10:37
>>317
最後のほう駆け足でまとめたからわかりにくかったかも。
普通に夫婦の子供です。
ただ夫は自分たちは異母兄弟なのかもしれないということを知ってしまったので呻いたのです。

319 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/01/10(水) 07:22:38
>>317
死んだ妻の父(義父)の足を触った時、弟の足とそっくりなのに気が付いた
義父は精子バンクみたいなのに精子を提供したことがあると言う
夫の父は不能の可能性がある

もしかして義父の精子で夫は生まれたかも
じゃあ義父の娘である妻とは兄妹かも
妻の母はそれに気付いて近親相姦の子供を流産させたのかも

…と思いついたところで「妊娠しますたv」

 

過去を運ぶ足 (文春文庫 278-1)
過去を運ぶ足
(文春文庫 278-1)