糸杉(坂田靖子)

269 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/06/18(月) 11:11:49
阪田靖子の漫画で「糸杉」がやりきれない気持になる作品だった。

舞台は(たぶん)1970年代くらいのイギリス片田舎の小さな会社にキーパンチャーとして勤める
若くて美しい女性Aは14,5歳の思春期の弟Bの親代わりでと二人でアパートに住んでいて、
姉弟で助け合ってつつましく暮らしている。(BにとってAは母親であり姉であり世界の全て)
Aは自分の過去から、恋愛に対して臆病で会社にタイプライターの納品にやってくる、
木訥で誠実な若者Cからのおずおずしたアプローチにも気がつかないふり。
そういうAに対して弟のBは「せめてデートくらい」と、Cを焚きつけてAを夏祭りの
デートに誘うわせたりして応援ムード

ところが、デートをきっかけに本気交際になったAとCが真剣に結婚を考えるようになると
Bはたった一人の肉親を取られてしまう恐怖から精神的に不安定になり、
ついにはAの過去の職業をほのめかしてまで大反対する
Aは思い悩んだ末、「弟のBも一緒に住もう」とまで言ってくれていたCのプロポーズを断ったが、
Aが自分から離れてしまう不安から職場にまで付きまとうようになったBに対しての
イライラからの口喧嘩でつい「お前さえいなければ私は幸せになったのに」と口走ってしまう。

ショックを受けたBは「僕が死んだら姉さんは幸せになるんだろ!」と家を飛び出し、
そのまま帰ってこないBに不安になってAはCに助けを求める。
プロポーズをけんもほろろに断った(そう誤解していた)Aからの連絡に、
最初は冷たく拒絶したCだったが、この姉弟の複雑な事情を知って一緒に一晩中探しまわるが、
結局Bは翌日水死体となって発見される。
自分の言葉でBを自殺に追いやったと打ちひしがれるAにCが
「きっとこれは事故で、Bは家に帰るところだったんだよ」と慰めるシーンでエンド
Bが自殺か事故死なのかの判別は読者に丸投げで、Aの罪悪感はそのままで救われない。


271 名前:269 投稿日:2007/06/18(月) 11:12:51
実はこの「糸杉」の発表の数年前に、Bが幼いころのストーリーで作品があり
その中で、若くして両親を亡くしたAが幼いBを育てるために街娼となって生計を立てていたが
自分の職業の為にBが苛められたり、「姉さんから優しくしてもらえる」お客さんになって
一晩中傍に居てもらいたいと、幼いBが食事代として貰っていた小銭をずべて貯めていて
それを悪童に強盗された時に大けがをしたり・・といろいろあって、とうとう街娼を辞めて
Bを連れて誰も過去を知らない街に引っ越しを決心する、という内容。

最後の引っ越しシーンの「もう夜も一緒にいられるわ、でもこれからは白パンは食べられないから
黒パンでも我慢しなくちゃ駄目よ」「僕、黒パンをきっと好きになると思うな」という会話で
あぁ、この姉弟は誰も知らない新しい土地で貧しいながら幸せになれるんだな・・と
ほのぼとした感じで終わるのに、その続編の「糸杉」のエンドがこれか!と鬱になったよ。

こうして書いたらBは単なる中2病のメンヘラみたいだけど、作品では理屈では姉の
幸せを願いながらも、感情で姉が他の男性との交際をどうしても認められない
ジレンマと自分のせいで姉が身を売っていた過去の負い目と、思春期らしい潔癖感と
姉に関する複雑なシスターコンプレックスに悩むBも哀れだし
一時は身を落としてまでBを育て、自分の幸せよりBとの生活を選んだAに対して
こんなもやもやした終わり方はないだろう!って後味が悪かったよ


276 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/06/18(月) 12:40:42
>>269
糸杉好きだー
しかし>>271は知らんかったよありがとう
坂田靖子のコメディは微妙なのも多いけど、
鬱話ではハズレ見たこと無い

 

花模様の迷路 (ハヤカワ文庫 JA (559))
花模様の迷路
(ハヤカワ文庫 JA)