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214 名前:1/2 投稿日:2007/07/09(月) 20:18:30
阿刀田高『ホームタウン』

主人公は名古屋から東京へ出張してきた男・田村二郎。
業者との商談が上手く行ったので自分へのささやかなご褒美として入った
多角経営の店で、おかしな話を聞く。

『変な話があるんだよ』
おでんの湯気をぬって主人の声が聞こえた。
『何かね』
答えたのはスポーツ刈りの男。
『八幡神社の前に青いマンションがあるだろ?そこの七階。
 エレベータの裏側に一室あるんだ。そこに住んでる奴が少しおかしい』
『男か?どうおかしいんだ』
『いや、女だ』
『みたことはあるのか?』
『残念ながら無いね。出前持ちに雇ってた大学生知ってるだろ?』
『ああ、知ってる。大学生なのに坊や見たいな顔をした』
『そう。そいつだ。それで、マンションの女が毎日出前を注文するんだよ。電話で』
『ふーん』
『その内に坊やが”おかしい”て言い出して・・・』
『なんで?』
『一度も顔を見たことが無いって言うんだ。もっていくと、”はーい”って声がして、
 郵便受けの口からお金が落ちてくる。あとで器を取りに行くと、廊下に置いてある』
『変な女だな』
『近所の人も見たことが無いし、管理人も知らんて言うんだ』
『それは美人じゃねえなあ』


216 名前:2/2 投稿日:2007/07/09(月) 20:34:37
『それで、さっき言った坊やだが、蒸発したらしいんだよ』
『あ、そう』
『バイトの子だから詳しくは知らんのよ。でも、うちを辞めてちょっとたったころに
 親父さんが尋ねてきてな。消えちまったんだってよ。』
『今に出てくるさ。女と住んでるんじゃないか?』
『多分な。ちょうど坊やがいなくなったころに、出前の注文が二つになったんだ』
『へぇー』
『二つ頼んで、相変わらずひっそりと廊下に丼が置いてあるんだ。
 もしかして、物凄くいい女で坊やが虜になっちまったのかなぁ・・・』
『考えすぎだよ』
『なんか変なんだよな。ドアの前に立ってると・・・・・・』
二郎の皿はとっくにからになっていた。話をそこまで聞いて二郎は店を出た。

誰にも顔をを見せない女。
一つだった丼が二つに増えたのは、やはり頭数がふえたからだろう。
そんなことを考えていると、八幡神社前のバス停に差し掛かった。
すぐそばに青いマンションがあった。
『ここの七階か』

ゆっくりとエレベータが昇る。七階で降りて、裏側へ回った。丼が二つ置いてある。
『ここか』ブザーを押してみた。何の返答も無い。もう一度押してみた。
声は無いが確かに中に誰かがいる。『ごめんください』二度呼びかけた。
あきらめて帰ろうとしたときに、急にドアが開いた。
『えっ?』スイと吸い込まれ、そのままドアが閉じた。

田村二郎はその日を境に姿を消した。
消えた理由は見当もつかない。何かに魅入られたように、生きる道筋を
変えてしまったらしい。まるで知らないホームタウンに帰って行くように・・・・・・。
今では暗い廊下にいつも丼が三つ戻してある。


217 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/09(月) 20:44:30
別に後味悪くないな

262 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/10(火) 16:35:08
阿刀田高、特に前スレあたりから大人気だね。きちんと原作読んでみようかな。

 

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