キノの旅/平和な国(時雨沢恵一)

294 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/11(水) 16:28:38
既出かもしれませんが、時雨沢恵一のライトノベル「キノの旅」シリーズの一編
「平和な国」。
ネタバレしてるので嫌な人はスルー推奨。そして長文ごめん。

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作中の世界は、ところどころに(たいていは城壁で囲まれた)国が存在し、
それ以外の部分は荒野や草原や森林など。
(古代ギリシャのポリスや古代中国の邑みたいなイメージ)。
国以外のところに住む個人や民族もいる。
各国の社会制度や科学技術の発展度は、
すべてが機械化されて全自動みたいなところから、狩猟採集農業オンリーみたいなところまで様々。
主人公は喋るバイク(珍しいものではないらしい)に乗って旅をしている。

主人公がある国(Aとする)に入国し、この国の見所は何かと尋ねると
国民は口々に「歴史博物館がお薦め」と答え、主人公(と喋るバイク)はそこへ行ってみる。
博物館は図や模型や映像・音声・文字案内が行き届いていて非常に見易く、
穏やかで上品な雰囲気の、年配の女性館長が案内をしてくれた。
先史時代、古代、中世と過ぎ、近代に差し掛かると、
展示は隣国(Bとする)との戦争の歴史になってゆく。
A国とB国は互いに人口も科学技術その他も拮抗しており、
一進一退のままずっと断続的に戦争が続いてきたという。
「私の夫も息子たちも、全員隣国との戦争で死にました」と
戦場の悲惨な様子を伝えるVTRを前に穏やかな表情で淡々と語る館長。


295 名前:294-2 投稿日:2007/07/11(水) 16:29:41
「しかしこの国は、国内の治安もよく生活も落ち着いている。
 とても戦争中には見えない」と主人公は疑問を口にする。
「『戦争』は続いていますが、今ではこのような悲惨な目にあう兵士も、悲しい思いをする母親もいません。
 夫と息子たちをすべて失った私は、栄誉市民になりました。
 その立場を利用し、私はある提案を行いました。
 隣国にも同様の方がおり、そのこともあってその提案は実現しました」
と語る館長。
「それはどんな提案か」と尋ねる主人公(と喋るバイク)に対し、館長は
「明日になれば分かります。明日『戦争』を見学なさるとよいでしょう。
 『戦争』の翌日は休館ですが、裏口を開けておきますので
 どうぞいらしてください。続きはその時に」とのみ答える。

翌日、主人公(と喋るバイク)は軍のホバークラフト(数mほど浮きながら移動する)に乗せてもらい、
『戦争』の様子を見学する。国の外に勢揃いしたAB両国の軍は闘争心剥き出しで挨拶を交わし、
そこから更に移動して、近隣のごく原始的な生活を営む民族(Cとする)の集落にやってくる。
始まりの合図とともに一台のホバークラフトが集落の中心にペンキをまいて線を引き、
AB両国の軍はそれぞれの陣地内でホバークラフトから銃撃してC族の人々を殺し始める。
中には斧を投げつけるなどして抵抗するC人もいるが、圧倒的な軍事力の差により
C人は老若男女問わずなすすべもなく殺されていく。
いくらかの遠くまで逃げたC人を除き、集落内のC人が残らず殺されたところで終了の合図。


296 名前:294-3 投稿日:2007/07/11(水) 16:30:38
AB両国の軍はそれぞれの陣地内で殺されたC人の死体を集計し、
その結果、A国の勝利が告げられる。
何人かの兵士が表彰されたり、B国の将校が「やりますなあ、しかし来年は負けませんぞ」などと笑ったりと、
打ち解けあうAB両国の兵士たち。
C人の死体はまとめて山積みにされ荒野に放置される。
A国に戻ると、国内も『戦勝記念』で沸き返っている。

『戦争』の翌日、主人公(と喋るバイク)は再び博物館に行く。
「あれがあなたのした提案か」と尋ねる主人公に対し、館長は
「その通りです。おかげで戦死する兵も、悲しむ遺族もいなくなりました。
 両国の対立感情をなくすことはできませんが、これなら悲劇は避けられます」
と微笑みながら答える。
「殺されるC人たちはどうなります?自分には賛同しかねます」と控えめに告げる主人公に対し、館長は
「あなたも母親になれば分かりますよ」と言う。

主人公が喋るバイクに乗ってA国を出発し、
しばらく進むと、突然棍棒や鉈などで武装したC人たちに取り囲まれる。
「自分はA、B国の人間ではない」と告げる主人公に対し、C人の長らしき人物は
「それは分かっている。自分たちはあのような目に合わされながら、AB両国に報復するすべがない。
 せめて旅人を襲って鬱憤を晴らすしかない」
と言う。
主人公が真っ先に襲い掛かってきた一人のC人を射殺すると、C人たちは散り散りになって逃げていく。
主人公(と喋るバイク)はそのまま立ち去る。

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サブタイトルが「Mother’s love」なのがなんとも…
このシリーズ、皮肉がきつかったり後味が悪かったりする話が結構あって、
独特な文体とライトノベルに抵抗感のない人にはお薦め。

 

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