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159 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/08/23(木) 12:06:12
宮部みゆきの「幻色江戸ごよみ」に収録されている
「春火秋燈」という短編小説中のエピソード。
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江戸のあるところに働き者でやり手の大店の旦那がいたが、
ある時食欲がなくなったり腹が痛んだり腹にしこりができたりといった症状を覚え、
評判の腕のいい医者に診せたところ
「腹の中にたちの悪い腫れ物ができており、あと半年の命」と言われた。
旦那は肝の座った人間だったらしく、落ち着いて店の中の引継ぎやら後始末やらを行ったが、
一段落すると、件の医者に「阿片を分けて欲しい」と言い出した。
旦那いわく、
「若い頃に阿片という薬のことを聞いた。
 この世のものとは思えないすばらしい思いをすることができるが、
 手を出せば遅かれ早かれ中毒になり骸骨のように痩せこけて死ぬと言う。
 自分はこれまで将来のことを考え手を出さないでいたが、
 死ぬと決まったなら若い頃からの好奇心を満足させてみたい。
 阿片には痛みを忘れさせる効果があるというが、
 痛みが辛いからではなく、純粋な好奇心のためなのだ」
とのこと。
医者は初めは渋ったが、礼金のこともありついに根負けして阿片を分けた。
旦那は家族にも内緒で阿片を吸うことになった。

160 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/08/23(木) 12:07:02
しかし数ヶ月がたち、半年が過ぎる頃になったが、旦那は一向に死ぬ気配がなかった。
むしろ元気になっているようにも見えた。
旦那は「阿片のおかげで痛みを感じないからだ」と思っていた。
しかし医者は「実は診断ミスで、たちの悪い腫れ物でも半年の命でもなかったのではないか」と思い
おびえ始めるようになった。
本来ならばそれはめでたいことだが、旦那は既に阿片中毒になってしまっているのだ。
結局病み始めて一年ほどで旦那は亡くなったが、骸骨のように痩せさらばえて
死んだのは決して腫れ物のせいではないと医者は分かっていた。

旦那からの形見分けで、医者は凝った造りの行燈をもらった。
「阿片の秘密を知っているのはあんたと私とこの行燈だけ」という符丁だと医者は思った。
その行燈をつけるたびに、医者はかすかに阿片のにおいを感じるような気になり、
また、痩せさらばえた旦那が手招きをしている夢を何度となくみた。
それからまもなくして、医者は病死した。
腹の中にたちの悪い腫れ物ができていた。今度は診断ミスではなかった。

 

幻色江戸ごよみ (新潮文庫)
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