赤朽葉家の伝説(桜庭一樹)

448 名前:1/3 投稿日:2008/01/28(月) 00:26:11
「紅朽葉家の伝説」より、「百夜」という女の一生

この話は紅朽葉家という鳥取の製鉄所を営む旧家の、三代に渡る話なんだが、
そこに出てくる百夜という女の一生がちょと後味悪かったので書いてみる。

紅朽葉家の主人は万葉という嫁をもらったが、嫁をもらう前に真砂という女中をお手つきにしていた。
真砂はすでに薹がたっていて、嫁をもらった主人はすでに真砂に興味を無くしていた。
真砂の精神は病み、主人の気を引くために数回にわたって裸歩き、裸踊りなどをした。
真砂は解雇されたが元お手つきということもあり、紅朽葉の分家に引き取られた。
嫁の万葉が妊娠中だったこともあり、主人は自分のために裸踊りまでしてしまった真砂に同情して
分家に通うことになった。
そこで産まれたのが百夜である。百回の夜を共にしてできた子供という意味の名前に、本家の人間は憤る。
彼女を産んだとき、真砂は
「ぼん(主人のこと)にも大奥様(姑のこと)にも似てない!どうして自分に似たんだ」
と泣き崩れた。
百夜は認知されたが本家に引き取られることはなく、精神の病んだ母親と、分家でひっそり暮らす。


449 名前:2/3 投稿日:2008/01/28(月) 00:27:08
万葉には泪、毛毬、鞄、孤独という四人の子供がいた。(珍名は、姑のタツがつけた)
百夜は毛毬と鞄の間の歳で、母親の真砂は幼い百夜と毛毬が道を通るのを見送り、そのたびに
「おまえの姉ちゃんだよ。姉ちゃんは本家で大事に育てられているのにお前は不憫だね」
「母ちゃんはお前を産むために、百回も千回も寝取ったんだよ」
などと言った。
やがて真砂は精神を病んだまま身体を壊して死んだ。
百夜は本家に引き取られたが、なぜか毛毬だけ百夜を「見ることができなかった」
毛毬は百夜を可視できず、存在すら知らなかった。
見ることができなかったので、周りの人間が百夜の話をしても
「いないのに何を言っているんだ?」……という調子だった。
百夜は毛毬を見続けた。柱の影から、机の下から、ストーカーのように毛毬をずっと見続けていた。
しかし、毛毬は百夜が見えないままだった。そしてその存在も知らないままだった。
明るく奔放で、大柄な体中にエネルギーを溜め込んだ丙午生まれの毛毬に対し、
百夜はじとっとした、地味で存在感のない少女だった。

450 名前:3/3 投稿日:2008/01/28(月) 00:27:39
中学生になり毛毬が彼氏を作った際、彼女はその彼氏を寝取った。
語り部である紅朽葉瞳子(万葉の孫娘)曰く「寝取りの血筋」だそうだ。
それ以降、毛毬が彼氏を作ったり男を好きになる度に、その男を寝取った。
また、毛毬の親友を妬んだりもした。
それは大人になっても続いた。
ある時、毛毬は家に出入りする米屋に入れ込んだ。
その米屋には妻子があったが、百夜はすぐに米屋を寝取った。
そのことが米屋の妻にばれ、妻は紅朽葉家に乗り込んでくる。
毛毬は見えない百夜のことを訴えられ、最初は何を言っているのか分からなかった。
事を知った毛毬は憤慨して百夜を探し、大屋敷を駆けめぐった。しかし、やはり見つけられない。
怒りの頂点に達している毛毬を、母親の万葉と妹の鞄が押さえつけ、涙ながらに百夜の存在を毛毬に教える。
あの子は最初からいる、ずっといる、十歳の時からうちにおって、あのときもこのときもあの部屋におったんだ。
ずっと百夜は姉さんの男を寝取ったんだよ、あの人は姉さんばかりを見ているよ。
しかし、毛毬は信じられないとばかりに、見えない百夜を探し続けた。
百夜は庭の木に登って逃げたが、バランスを崩して池に落ちた。その音を聞き、毛毬は百夜を見つけた。
走る音とついた足跡を手がかりに毛毬に追いかけ回され、百夜は屋敷外に逃げた。

次に百夜が発見された時、彼女は変わり果てた姿だった。
米屋と無理心中をはかったが米屋に寸前で逃げられ、彼を追いかけ回している間に足を滑らせて
海に落ちてしまったのだった。
死体になった百夜を、毛毬はやっと見ることができた……


451 名前:補足 投稿日:2008/01/28(月) 00:28:00
語り手である瞳子は、母親の毛毬はもしかしたら百夜を可視できていたかもしれないと書いています。
見えていたくせに、その存在を知りながら無視し続け、寝取りの百夜をいじめ殺してしまったのではないか……
毛毬はさっぱりした性格で男にもそれほど入れあげてなかったと記述されているため、
このエピソードの結末が後味が悪かったです。

ちなみにこの本は、紅朽葉家に嫁いできた千里眼の万葉、
万葉の子で丙午生まれでレディース→漫画家の毛毬の半生を、毛毬の子で語り手の瞳子がたどっていくお話。
謎や複線がきれいにまとめられ、最後は全てが明らかになるので、
全体的には後味は悪くなく、むしろすっきりします。


463 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/01/28(月) 10:56:37
あと、百夜は毛毬が好きだったというか関心を持ってもらいたかったのかねえ
友人にまで嫉妬するくらいだし
もしくは毛毬に存在を認めてもらうことが
自分を本家や父親やらに真に認めてもらうことだと思い必死になったか
そして死んで初めて受け入れてもらえたと
毛毬は男を見る目がなさそうだから
誘惑されやすい男を代わりにチェックしてくれてたのかもよw
寝取りチェッカーとして頑張ってくれてたのに
毛毬の娘に「寝取りの血筋」とか呼ばれて哀れな白夜タン
でもちょっとその本読みたくなったな

 

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)