ホーム » 小説 » 小説/あ行 » あなたにだって……(ジョン・ラッツ)

841 名前:1 投稿日:2008/03/04(火) 01:01:02
さりげなく投下。
ミニミステリだったかで読んだ話。タイトル失念。

主人公は仕事の都合で異国を訪れた紳士。
言葉も通じない事に辟易としながらも何とか責務を果たし、後は帰国を待つのみだった。
それまでは緊張感で目にも入らなかった異国の地を、折角だからと観光気分でブラリと散策してみた。
仕事が上手く運んだのに気が緩み、警戒心が薄れていたのだろう。
彼は手にしていたバッグをひったくられてしまう。
バッグの中には全財産は勿論、帰国用の旅券や身分証明書、パスポートも入っていた。

警察に駆け込もうにも言葉が解らない。どう訴えれば良いのか。

電話だ! 電話さえかける事が出来れば本国の家族や友人、会社に事情を話して送金して貰える!
しかし文無しの彼にはそれすら叶わない。
「すみませんが小銭を貸して下さい」その一言すら解らない。
すでにチェックアウトしてしまったホテルは会社が用意したものだったから、滞在中には会話も必要なかった。
今戻ったところで自分には何も出来ないだろう。

ひょっとしたら小銭でも落ちていないだろうか。目を皿の様にして街中を放浪したが、それはただ徒労に終わった。
夜の帳が下り、人通りもなくなった通りをうなだれながら歩む。
こうなったら誰かに全力で訴えるしかない、そう思った。
困っているという事実を全身全霊で、身振り手振りで訴えればきっと分かって貰える筈だ。
国は違えど、同じ文化人同士なのだから。


842 名前:2でおわり 投稿日:2008/03/04(火) 01:01:31
いつの間にか明かりも碌にない暗い通りに彼は居た。
そこに一人の男性が現われた。酔っているのか足元が覚束ない様子だ。
彼は決意を込めて男性に歩み寄った。
途端に警戒心を露にする男性に、彼は懸命に事情を話し、身振り手振りで訴えかけた。
だが男性は宇宙人でも見るかの様な怯えた素振りで立ち去ってしまう。
駄目だった。うなだれる彼の目に、路肩に落ちたコンクリートブロックが映った。

他に何が出来ただろう?
彼は古臭いサイフから抜き取った金で本国に電話し、早速送金してもらった。
バッグを盗まれ途方に暮れた。その事だけを伝えた家族や友人、会社も深く同情してくれた。
本国への機上で柔らかなシートに身を沈めながら、彼はあの男性の無事を願った。

もしかしたらある日、言葉も通じず途方に暮れた異邦人に殴られて金を奪われる事もあるかも知れない。
それがないとは決して言えないのだ。

何と言うか、最低限の言葉も分からんくせにホイホイ外国に行くなよ、とか思うと同時に、
自分も取り立てて流暢に外国語が出来る訳でもない事実に気付く。
日本に居たら居たで、満足に日本語話せない外人を相当見掛ける、という事実にも気付く。
色んな意味で『他人事ではないのかも』というリアリティがあって、ほんのり怖い気がする話。
ただほん怖ネタと違うのは、主人公が完全に『もう済んだ事だし』とか
『俺様助かってホッとしたんだぜ』という目線で語りつつ、
だからもしそんな目に合っても納得できるッス、的な偽善(あるいは自己暗示)な締め方をしてる部分が
後味悪いなぁ、と思ったのだわ。


843 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/03/04(火) 01:21:00
>>841-842
パスポートはどうやって手に入れたのだろう?

 

ミニ・ミステリ100 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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