耳嚢/巻一「大陰の人の因果の話」
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360 名前:1/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:22:32
- 『耳嚢』「大陰の人の因果の話」
元本が手元にないので、一部創作が混じっているが。ある裕福な農家のあるじが、少し離れた里に用事に出かけた帰りに雨に降られた。
見回すと民家が一軒あるので、その軒を借りて雨宿りすることにした。
人里離れた場所であったが、なかなか立派な造りの家で、
馬小屋には毛並みのいい牝馬が一頭繋がれている。
そのうち、その家の主人とおぼしき三十ばかりの男が出てきて、
「雨宿りなら中にお入りなさい」と言うので、その言葉に甘えることにした。
囲炉裏をはさんで世間話などしていたが、あぐらをかいた主人の男の裾が乱れて、
信じがたい大きさの一物がのぞいているのが見えた。
思わず目を奪われていると、主人の男もそれに気づいて裾を直す。
気まずい空気なので、「なかなか立派なものをお持ちですな」と軽口で流そうとした。
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361 名前:2/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:23:06
- すると主人の男が言うには、
「立派どころか、私はこの一物のおかげで大変不幸な目に遭っているのです。
これがあまりにも大きいために、私はこの年になって妻を娶ることもできません。
外聞も悪いので、そこそこ金のある両親がこの家を建ててくれ、
ここで一人で暮らしているのです。
辛抱できなくなると、あの牝馬を慰みにしています。
この一物のためだけに、こんな畜生道にまで堕ち、情けない限りでございます」
雨宿りの客は「それは難儀なことですなあ」以外に言葉もなく、
雨もあがったので早々にその家を辞した。
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365 名前:3/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:32:16
- 農家の男は家に帰ると、妻に、その日会った巨根の男の話をした。
「お前は常々、わしのものを『小さい』と言ってこぼすが、
あれだけ大きいというのもかえって困ったものということだ」
「まあ。それはいったいどのぐらいに大きかったのでございますか?」
「あの床の間の花活けぐらいの大きさはあったな」
「そんなものがあるはずはございますまい。ご冗談を」
で、その日は笑って済んだ。
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366 名前:4/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:33:19
- 翌日、夫が仕事から帰ってみると妻の姿が見えない。
下男下女を呼んで尋ねてみると、
「お昼頃に支度してお出かけになったが、どこへ行かれたのかは存じません」と言う。
行き先も告げずに出かけるとはおかしなことだと、
「何か変わった様子はなかったか」と下女に問うてみると、
「変わったことと言いますか、奥様は出かける前、床の間の花活けを膝に抱いて、
撫でさすってはため息を吐いておいででした」
とのことであった。
それを聞いて夫は、妻の行き先にピンと来るものがあった。
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368 名前:5/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:34:10
- 次の日の朝、夫は支度をして、先日雨宿りをした家に向かった。
着いてみると、主人の男はいたが、妻のいる気配はない。
夫は「先日雨宿りをさせてもらったのでお礼に参りました」と、
当たり障りなく様子をうかがうことにした。
話していると、この家の主人がどうも浮かない顔をしているのに気づき、
「何か気にかかることがあるようですな。まあ話してごらんなさい。さあさあ」
と強いると、主人の男も「そうおっしゃるのなら」と話し始めた。
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369 名前:6/6 投稿日:2008/06/12(木) 00:35:14
- 「まことに奇妙なことなのです。
昨夜、見知らぬ女がこの家にやってきて、『あなたと私は結ばれる定めなのです。
どうぞ中に入れて私と契ってくださいませ』と申しました。
私は例のものを見せて『これではできぬ相談だ』と答えたのですが、
女の方はますます狂喜して、今すぐに契ってほしいとせっつくのです。
そうまで言われて私もその気になり、契ってみましたところ、
これがまた大層具合良く、これまでにない喜びを得ることができました。
女の方も満足した様子で、『これからはあなたの妻としてここで暮らしたい』
と申しますし、私がそれを断る筋合いもございませんでした。
女は今朝早くから起き出して、女房らしく働いておりましたが、
馬に飼いばをやろうとしたところ、どういう訳か馬が躍り上がって
一蹴りで女を蹴り殺してしまったのでございます。
普段はおとなしい馬ですのに、合点のいかぬことです。
女は一体どこの誰かも知りませんので、
とりあえず今葬ってきたところなのですが、何がなにやら訳もわかりません」夫は、その女は自分の妻だったと言い出せるはずもなく、
「難儀なことでしたな」とだけ言って、一人虚しく家に戻るしかなかった。
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370 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/06/12(木) 00:42:46
- >馬に飼いばをやろうとしたところ、どういう訳か馬が躍り上がって
>一蹴りで女を蹴り殺してしまったのでございます。
動物のお医者さん思い出した。どんなに大人しい馬でも正面や背後から近づいたら駄目なんだよな。
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372 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/06/12(木) 01:06:49
- 馬に嫉妬されるとは
恐ろしい…
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373 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/06/12(木) 01:07:33
- 馬は男を女に取られたくなかったから蹴り殺したんじゃ?