ホーム » 小説 » 小説/わ行 » 私たちの退屈な日々/取り憑く(多島斗志之)

538 名前:1/3 :2009/04/28(火) 15:14:33
短編集「私たちの退屈な日々」より

43歳の主婦Aは毎日の生活に退屈し、また疲れきっていた。
夫が嫌でたまらないし、大学生の娘がうらやましくて仕方がない。
家事とパートに明け暮れるだけで、何も楽しいことなんか無い毎日だった。
そこへ、パートの同僚から演劇を見に行かないかと誘われる。
同僚はその劇に出演するある舞台俳優(以下B)のおっかけをやっていたのだった。
気乗りがしないAだったが、強引に誘われて行ってみると、
若いのに気配りもできるマダムキラーなBの魅力にすぐにメロメロになってしまった。

それ以降、すっかりBのおっかけになったAは、
だんだん舞台上のBを眺めるだけでは満足できなくなってきた。
そして、Aがただのおっかけからストーカーへとチェンジするのにそう時間はかからなかった。
ついにはBの事務所のガードを潜り抜けて住所を調べ上げ、マンションの前で待ち伏せまでするようになる。
会ってどうこうしようというつもりはない。眺めるだけで満足だと思いつつも、
もし会ってしまったらどうしよう、熱心なファンだと喜んでくれるだろうか? 家に上げてくれるだろうか?
などと想像してしまうのだった。
ある日、いつものようにマンションの前で待ち伏せをしていると、
Bがなかなか帰ってこないのでついつい時間を忘れて深夜まで立ち尽くしてしまった。
もう電車もないし、どうしようと思っていたところにBがタクシーで帰ってくる。


539 名前:2/3 :2009/04/28(火) 15:16:58
Bは相当酔っており、マンションのカードキーすら差せない状態で、そのうち玄関の前で寝転んでしまった。
あわてたAは飛び出し、肩を貸してやってBを部屋まで連れて行き(もちろん何号室かは分かっている)、
ソファにBを寝かせて寝ゲロの始末までしてやった。
Bのゲロを始末したことが、なんだか誇らしいとさえ思った。ここまでやったファンはいないだろうと。
しばらくしてBは目を覚まし、目の前の見知らぬオバサンに驚き、青ざめた顔ですぐに出て行って下さいと告げた。
一瞬で酔いが醒めてしまったようだ。
もう少し部屋にいたいAは食い下がるが、結局追い出されてしまう。
しかし、この出来事は美しい思い出として心に刻まれ、
Aは家に帰ってからも何度も思い出してはうっとりしていた。

数日後、Aはおっかけの同僚と2人でまたBの劇を見に行った。
プレゼントを渡そうとファンの中に紛れてBに近づいていくが、
Bは群集の中からAの顔を見つけるなり真っ青になってそそくさと控え室に戻ってしまった。
その日の劇は滅茶苦茶で、Bは何度も台詞を間違えたりトチったりするなど散々だった。
Aは考える。おそらくBはあの日の出来事をAが周囲に言いふらし、
マスコミが嗅ぎ付けてスキャンダルになることを恐れているのだと。
今日はそれを心配してああなってしまったのだと。
だから誰にも言わないつもりだとBに教えて安心させてあげなければいけない。


540 名前:3/3 :2009/04/28(火) 15:18:51
けれどもBの自宅や事務所に電話をかけても、すぐに切られてしまう。
どうしたものかと思っていると、Bがバラエティ番組であの夜の出来事を
「不気味なおばさんとの恐怖の一夜」として面白おかしくしゃべっているのを見てしまう。
Aはショックのあまり、家事もパートも何もする気力がなくなってしまった。
あのエピソードが余程うけたようで、Bはその後も色んなバラエティに呼ばれては
その出来事を尾ひれを付けてしゃべっている。そのうち、他の俳優や芸人などもネタにするようになってきた。
我慢できなくなったAはBのマンションの前で待ち伏せし、
あの話を止める様に言うつもりだったが、すでにBは引っ越した後だった。
これで何かが切れたAはBが生放送で出演している時間帯を調べてテレビ局に突撃し、警備員に取り押さえられる。

その後、Aは夫に離婚を申し出てあっさり承諾。夫も家事もしないしパートにも行かない、
あげくに何度も朝帰りするAに愛想を尽かしていたのだった。
そしてAは他県に引越し、そこでふたまわり以上も歳上のやもめの男と再婚した。
結婚式の日、3人いる男の先妻の子供達はとまどった。何しろ父親は60近いのだ。子供達もみな独立している。
中でも28歳になる男の三男は、花嫁の姿を見て絶句した。

「B、何をしてるんだ。新しいお母さんに挨拶せんか」

父親にそう言われても、無言で立ち尽くすしかなかった。


541 名前:本当にあった怖い名無し :2009/04/28(火) 16:08:51
乙です~
ストーカー主婦koeee!!
多島斗志之・・・知らん作家だなあ。紹介ありがとうです。

543 名前:本当にあった怖い名無し :2009/04/28(火) 18:29:01
>>538
こえ~~
面白かった!
でも主婦にはBと付き合いたいとか、そこまでは思ってないんだよね。
なんかちょっとかわいそうだな

545 名前:本当にあった怖い名無し :2009/04/28(火) 18:46:42
>でも主婦にはBと付き合いたいとか、そこまでは思ってないんだよね。
>なんかちょっとかわいそうだな
そこで可哀想って発想が出る543も怖いよ…

555 名前:本当にあった怖い名無し :2009/04/29(水) 01:35:59
>>548
どっちもDQNだよな
俳優もさ、そんなストーカーのことをTVでネタにして面白おかしく誇張したどうなるか
想像できなかったんだろうか?
ストーカーが恥じ入って身を引くわけないじゃないか

556 名前:本当にあった怖い名無し :2009/04/29(水) 01:46:04
さすがに実家の親父と結婚するとまでは予想できないだろうなw

 

私たちの退屈な日々 (双葉文庫)
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