踊り子(東野圭吾)

229 名前:東野圭吾「踊り子」1/3 :2009/05/20(水) 20:37:15
中学生の孝志は、塾へ向かう途中で有名な私立女子高からピアノの音が流れているのを聞く。
深夜に誰が弾いているのだろうと、興味本位で錠の壊れていた裏口から入ってみると
体育館の中で新体操を踊っている少女がいた。
Tシャツにジーンズという格好ではあったが、彼女の躍る姿に惹かれた孝志は
彼女が毎週水曜の深夜に一人で練習していることを知り、何とか話をしてみたいと思うようになる。
家庭教師の黒田から、「応援しています」という気持ちを伝えたらどうかとアドバイスを貰い、
いつもの水曜日に彼女の練習を見た後、体育館の玄関側にスポーツドリンクと「ファンより」と書いた紙を置いた。
彼女が気になって自分を待ち伏せたりしないか期待しながら3週間それを続けたが、彼女の反応はなかった。
それどころか、3週目には彼女は練習に現れなくなった。そしてそれからも彼女が体育館に現れることはなかった。

230 名前:東野圭吾「踊り子」2/3 :2009/05/20(水) 20:38:18
気味悪がられたかと落ち込む孝志だったが、ある日友人の家で偶然彼女の写真を目撃する。
友人の姉の中学時代のクラスメイトだとのことで、簡単な住所も卒業アルバムからわかった。
自宅の近くだからと家庭教師の黒田が彼女の家をつきとめに行った。
しかし見つけたのは長屋の一画の古い小さな家で、有名私立に通うような娘がいるとは思えない。
そして近所の聞き込みで、その家の娘が3ヶ月前に自殺しているとの情報を得る。
ちょうど孝志が踊り子の姿を見なくなったころだ。
さらに、彼女が高校に行かず働きに出されていたこともわかり、働いていた中華料理屋で聞くと
陰気な子だったが、テレビで新体操がやっていると皿洗いの手を止めて見入っていたとのこと。
「彼女の家、どうだった?」
「今週も体育館見てみたけど、やっぱり彼女いなかったよ」
と話す孝志に、黒田は何も言えなかった。

あの女子高出身である女友達のツテで、黒田は体操部の子から話を聞くことができた。
新体操部と部は違うが、「水曜日の踊り子事件」として学校では有名になっているらしい。
夜体育館に忍び込んで新体操の真似事をしている女の子がいたが、
ある日隠れて見張っていた新体操部に見つかり捕まって土下座させられたり
道具を全部磨かせられたりとにかくひどいことをされたらしい、という話だった。
自分の恵まれない境遇を呪い、その気持ちを発散できるのが夜の体育館で踊ることだった彼女にとって
それを奪われ屈辱を与えられたことが自殺の引き金になったのか、と黒田は思った。


231 名前:東野圭吾「踊り子」3/3 :2009/05/20(水) 20:39:21
孝志は今でも彼女のことを想っている。
「手紙を書こうか」「家に行ってみようか」と聞いてくるのをはぐらかし
黒田は孝志に真実を話すべきか迷いながら、体操部の子が言った言葉を思い出す。
なぜ新体操部員が「踊り子」の存在を知ったのか、という問いに彼女が答えた言葉を。
「毎週木曜の朝になると、体育館の玄関に手紙とスポーツドリンクが置いてあったらしいんです。
 部員の誰も心当たりがないってことで、置いた主が誰なのか探るつもりで見張っていたら、
 その女の子が現れたらしいんですね。
 彼女はいつも裏口から出入りしていたから、その存在には気づいてなかったんでしょう」

 

犯人のいない殺人の夜 (光文社文庫)
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