キャラクター・コレクション―ファンタジーRPGの職業・役割/間者の話(安田均・グループSNE)
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609 名前:キャラクターコレクション<間者1-2 :2009/06/26(金) 09:18:44
- <間者の話>
吟遊詩人である主人公は酒場で客に請われてある歌をうたった。
それはこの国の王が、昔にあった隣国との戦で敵軍の策の裏をかき、
大勝利をおさめたことを讃える歌だった。
だが歌いはじめてすぐに、別の酔っぱらい客の一人がその歌をさえぎった。
「そんなのは嘘っぱちだ、戦いに栄光なんてあるもんか!」男は制止されてもやめず、興奮した他の客たちに店の外へとつまみ出された。
だが主人公が歌いおえてしばらくしてから酒場を出ると
男は外で彼を待っており、しょげ返った様子で先程の非礼を詫びた。「すまなかった。あんたの商売のじゃまをする気はなかったんだけど
あの歌はどうしても耐えられなくて……」
主人公が事情を尋ねると、男は古い記憶の痛みに耐えながら少しずつ話してくれた。かつて、男は先程の歌にうたわれたこの国の王に仕える戦士だったという。
ある時、彼は王からじきじきに命を受けた。
避けられぬであろう隣国との戦を前に、かの国に潜入し実情を探れ、と。王に忠誠を誓う彼は、名誉ある任務だと喜んで承知した。
隣国に入り込んだ男は、ただの若者をよそおって軍ともつながりのある大商人の元へ雇われる。
疑われないため一心不乱に働いていた彼は、その勤勉さをかわれて周りから信頼されるようになった。
大きな仕事も任されるようになり、おかげで隣国の軍の動きに詳しくなった。
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610 名前:キャラクターコレクション<間者2-2 :2009/06/26(金) 09:20:54
- そんな彼だったが、商人としての生活を送るうち、段々雇い主である大商人の娘と親しくなり、
お互いひかれあうようになっていた。幸い雇い主も彼を気に入ってくれており、
戦さえなければ娘と結婚して商家の跡取りにという未来もあっただろうと男は言う。だが戦は彼らとは関係のない所ではじまってしまったのだ。
隣国の軍が、彼の王を迎えうつため動いたのを知り、男はそれを知らせるための決断を迫られた。結局彼は偽りの姿を捨て、王の元へ馳せ参じる。
その後は主人公が知る歌の通りの結末だ。
国王の軍は大勝利。その褒美にと男は袋一杯の金貨を与えられた。男はその後、進軍から少し遅れて隣国へと入った。
「無残なありさまだったよ……」
男はすすり泣いた。第二の故郷と呼べるほど住み慣れた隣国の街は、
兵士たちの略奪や放火を
受けて見る影もなく荒れ果てていた。
男は商人の娘の行方を必死に探してまわったのだが
彼がその末に知ったのは、彼女が兵士に犯されて自殺したという事実であった……。「今でも俺は自分が何をやったのかわからない。
ただ、何か大切なもののために行動したのは確かなんだ」でも、と彼はいう。
それは愛する娘の命や、商人としての平和で満ち足りた人生、
それにたくさんの罪なき人たちの幸せといったもの全部を
犠牲にしてまでやらなくちゃいけないことだったのか……?と。
男は主人公に言った。「なぁ吟遊詩人さんよ、信じられるか?
あんたの目の前にいるみじめな男は、この国を勝利に導いた英雄なんだぜ……」