ホーム » 小説 » 小説/は行 » 春雨物語/死首の咲顔(上田秋成)

73 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 00:41:21
『春雨物語』の「死首の咲顔(えがお)」。

主人公の家は元は由緒あった武家の系統を引く郷士で、今は商売で栄えていた。
主人公は書物を好み、また見かけによらず弓などにも秀でた好青年だったが、
父親は「教養など一銭の役にも立たん!」という実利一辺倒で欲深く狭量な人物だった。
村内の親戚筋には同年代の若者がいて、妹と母親の三人暮らしだった。
貧しい家のため父親はこの者らを毛嫌いしていたが、息子同士は仲が良かった。
また、主人公はその妹とも懇意で、主人公から書を習い、貧しいながら聡明な娘だった。
二人は将来を言い交わし、兄や母もそれを歓迎していた。

年頃になって仲も深まり、ある日一家の兄が妹を嫁に貰ってほしいと
正式に主人公の父母のもとへ挨拶に行くと、父親は激怒して
一家の貧しさをあげつらい侮辱的な罵声を浴びせて追い返してしまった。
悲嘆して妹は病に寝付いたが、主人公は父親の目を盗んで密かに見舞い、
「約束は絶対に守る。駆け落ちだっていとわない。
だが、親に孝行もせぬうちに出奔するのは、人の道理に反する。
必ず迎えに来るから、今しばらくは堪えて待っていてくれ」と励ます。
逢いに行っていたのがバレて主人公はまた父親から激怒を食らうが、
詫びを入れ、書物も封じ、父親の言いつけどおりひたすら汗して実利商売にのみ働いた。


74 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 00:43:12
そうこうするうちに、妹の病がますます重くなり、余命も危ぶまれた。
知らせを受けた主人公は、「かくなる上は、せめて短い間だけでも夫婦に」と
兄と相談をまとめに駆け付け、自宅へ妹を輿入れに向かわせた。
門を入って、「ここの嫡男の嫁である以上、この家で死なせて墓へ入れてくれ」
と兄は願い出、主人公も「この人は私の妻です」と言うが、
父親は当然「突然やって来て勝手な事ぬかすなぁ!」と怒り狂って沸騰状態。
「もういいです、最期の時を二人で過ごしましょう」と主人公が娘の手を取って門を出かけると、
その時突如、兄が「いや、この家から出ることは罷りならん! お前はここで死ぬのだ!」と
正装して身に着けていた刀で妹の首を斬り落とした。さては発狂したのかと思われたが、
それを見た主人公は、まるで先刻承知だったかのように平然と娘の首を拾って歩き出した。
「その首を我が家の墓地へ納める気か!? おのれ、許さんぞ! 人殺しの犯罪者どもめ!」と、
父の号令で主人公と兄は捕えられ、代官所に引き渡された。

「おたくの息子は気が触れたぞ!」と、家で待っていた娘の母親に村役が知らせに駆け付けたが、
この母親もまた、「そうですか、それはどうもご苦労様です」と平然と受け答えした。
斬り落とされる瞬間の娘の首も微笑みを浮かべており、どうやら妹・兄・母・主人公の
四人の予てからの示し合わせで、こういう結着になる事は覚悟の上だったようだ。

裁きの結果、「妹の斬首は母親も許可していたことなので、兄を罪に問わない」
「主人公の父親こそ、何も罪無きようで罪多し。家財没収のうえ放逐」
「ただし、妹の殺害は無罪なれど、世間を騒乱させた咎で、兄・母・主人公も追放」
ということになった。
父親は、「お前など勘当だ! 私一人で他所で商売を再興する!」と捨て台詞を残して去り、
その後の行方は誰も知らない。主人公は剃髪して山寺へ入った。
主人公の母親も、実家へ戻った後、余生は尼として過ごした。
娘の兄と母は、他村へ移り、今までどおり貧しいながら耕作して穏やかに暮らした。


75 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 00:45:36
…なんていうか、親孝行のためといって駆け落ちを思いとどまり
にっちもさっちも行かなくなってから四人で示し合わせて父親に意趣返しをするくらいなら、
さっさと駆け落ちして遠く離れてでも夫婦で幸せに暮らしておく方が
よっぽど孝行なんじゃないかと思った…。

この話には源太騒動という元ネタの事件があるらしいが、
それはどっちかというと娘の兄の側が話題の中心で、
両家の不釣合いを理由に縁談を破棄された後、覚悟の上の兄妹が婚礼装束で屋敷を訪れて
庭先で兄が妹の首を落とし、農民の身分といえど元は由緒ある武士の血筋の剛健さ、
「恥と不名誉」を重んじる気風、潔さなど見せたのが人々の評判として流布していった感じだそうな。
兄は直ちに代官所に自首したが、密通・身持放埓の子女への家長権の正当な行使という名目で
放免だったのだそうで。
はっきり言って、孝行との板ばさみとか駆け落ちうんぬんとか、ヘタに主人公の視点を入れて
兄の行動を不可解になふうにするよりは、原話のほうがよっぽどスッキリしていると思った。


76 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 00:56:51
まあ、「駆け落ち」というものをどう捉えるかによるな。
今と当時は違うわな。

77 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 01:33:05
>>76
いや、そうなんだけど、原話では
本家の息子はそのまま父親に言い込められてるヘタレで(事件当時 留守だった
とする説もある。いずれにしても当事者にしては影が薄くて蚊帳の外的)、
発憤した兄妹が意地を見せた感じできれいに完結してるが、
春雨物語みたいに「最後は駆け落ちもいとわず」みたいな思い切りのいい主人公なら、
じゃあそうしろよって感じがして。

首を落とす直前の場面でも、駆け落ちのそぶりを見せたかと思うと
そこで斬首した兄の行為に同調したり、なんか行動が一定しなくて、
最初から首を落とす覚悟の上で婚礼衣裳を着込んで出向き、堂々と実行した原話に比べて
なんか登場人物の行動原理が終始一貫してない印象を受ける。


85 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 12:01:52
いきなり最後に出てきた主人公母がものすごいとばっちりを食らったように見える
主人公母のスタンスはどうだったんだろう

86 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 12:44:52
その時代の母親に発言権なかろ

89 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/19(水) 16:23:39
>>85
ほとんど描かれてなくて影は薄いけど、一応
娘に逢いに行っていたのが露見して父親がカンカンなのを宥め、
「先に母さんの所に来なさい」と部屋に呼んで
事細かに言って聞かせ「お父さんに謝りなさい」と取りなしたりしていた。

 

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