自由殺人(大石圭)

531 名前:本当にあった怖い名無し :2009/11/29(日) 10:24:10
自由殺人というタイトルの小説。
とあるお金持ちが、10数個の爆弾を購入し、それを匿名で郵送するというところから始まる。
爆弾はクリスマスイブの正午から、一時間に一つずつ爆発するよう設定されている。
暗証番号を解いて開ければ、指定時刻より先に爆発させることもできる。
威力は小型ビルを跡形もなく消せるぐらいある。
爆弾を受け取った人は、愉快犯的に人通りの多いところに仕掛けたり、一人で自殺に使ったりする。

あるおじいさんは、妻を亡くした後は狭いアパートで一人きりで暮らしていた。
窓を開けてすぐ横にはカラオケ店が建つようになり、近頃ではその騒音に悩まされていた。
一人暮らしを始めた頃はそうでもなかったが、最近では家の付近はどんどん騒々しく、治安が悪くなっていった。
おじいさんはかつて戦争を経験していた。荒れていく街や人々を見ながら思う事があった。
「俺たちが守りたかったのはこんな国だったのか」

おじいさんはよく浜辺までゴミ拾いに出かけていた。妻がいた頃は一緒にやっていた。
ゴミの数も年々増えていくようだった。時には、ゴミを拾うおじいさんの目の前でゴミを捨てるものもいた。
おじいさんに空き缶を投げつけるものもいた。おじいさんは黙々とゴミを拾った。
拾いながら、おじいさんはいつも怒りを感じていた。
戦場では、将来を有望されていた才能ある若者たちが次々に死んでいった。
なのに特に優れているわけではない自分が生き残り、ろくでもない若者たちがのさばっている。
今でもおじいさんは、夜中に戦時中の夢を見てうなされた。
うなされるたびに慰めてくれた妻はもうおらず、おじいさんは一人で苦しみ続けた。
そんな時、例の爆弾が送られてきた。

カラオケ店にでも仕掛けてしまおうか、若者たちの多いところに仕掛けてしまおうか、
おじいさんはそんな考えと、素直に警察に届けるかで葛藤した。
そうやって苦しむと、呼応するように夢の中での再生される戦争の記憶も辛いものになっていった。
送りこまれた地で、食糧がなく仲間の死体を貪ったことを思い出す。
未来ある若者たちに嫉妬しているだけで、本当に死ぬべき醜い者は自分だったのだとおじいさんは思う。


532 名前:本当にあった怖い名無し :2009/11/29(日) 10:25:02
爆発予定の期日が迫る中、おじいさんはいつものようのゴミ拾いをしていた。
すると、ゴミ袋を持った中学生たちが話しかけてきた。
おじいさんがゴミ拾いをしているのを見て、自分たちもしようと思ったのだと、
たどたどしいがキチンとした敬語で彼らは言った。
こういう若者たちもいるんだから世の中は大丈夫だ、
むしろ無差別に若者たちを憎んでいたような自分こそが消えるべきだと、おじいさんは自殺の意思を固めていく。

爆発の時刻が迫る中、おじいさんは小舟に乗って海を渡り、陸を離れた。
小舟には例の爆弾も一緒に乗せている。おじいさんは海上で一人で死ぬつもりだった。
しかし、時刻をすぎても爆弾は爆発しなかった。
もうその頃には、各地で同じように爆弾を送られた人々によって、
あちこちで爆発が起き、死傷者が多数出たと報道されていた。
もしかして自分だけ不発弾を掴んでしまったのか、そう思いながらおじいさんは、
爆弾の入ったケースを開錠した。すると、中には爆弾などなかった。
中からはただ、大量に詰まった星の砂がこぼれてきた。

おじいさんと妻は戦時中で新婚旅行にもいけなかったので、かなり年老いてから二人ではじめて旅行に行った。
星の砂は、その観光先で一緒に妻と見たもので、妻との大切な思い出のものだった。
爆弾を配っていたお金持ちは、贈った相手をランダムに選んだのではなく、
過去に自分とつながりのある相手に送っていた。
孤独なお金持ちは、かつて旅行先で出会った、
互いを慈しみあう老夫妻に憧れ、二人を密かにストーキングしていた。
爆弾郵送のアイディアが思いついた際、自分と同じように
孤独になったおじいさんを楽にさせてあげようとお金持ちはおじいさんも対象にした。
しかし、その直前で、やはりおじいさんには生きていてほしい、
無気力になりつつあるおじいさんに生死について考えてもらった末に、
妻との楽しかった日々のことを思い出してまた前向きに生きて行ってほしいと思ったのだった。
おじいさんは、ケースからあふれ出る星の砂に埋もれるように倒れ込み、ただむせび泣いた。

微妙にいい話のようにも思えるが、死ぬぞと決意を固めた末にこれとか、むしろ意味死ぬより悲惨な気もした


534 名前:本当にあった怖い名無し :2009/11/29(日) 11:01:17
>>532
乙、おもしろかった
小舟がもう戻れない位置に行ってたとかなら後味悪いね

540 名前:本当にあった怖い名無し :2009/11/29(日) 19:49:29
>>534
なんつー後味の悪い発想だw

720 名前:本当にあった怖い名無し :2009/12/04(金) 05:33:14
>>532いいはなしだねちょっと泣けるわ・・

 

自由殺人 (角川ホラー文庫)
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