おめえだよ（ミドリカワ書房）

ミドリカワ書房「おめえだよ」

殺すつもりなんかまったくありませんでした
結婚して二年半仲良くやってきました
あいつの連れ子だった大輔は明るい子で僕にすぐ懐いてくれました
前の父親が馬鹿野郎だったようでキックパンチなんか当たり前だったそうです
それを聞いて僕は優しいパパになると強く意気込んだものでした

あの夜は少し苛々していて 仕事がなんだかうまくいっていなくて
うちに帰るとあいつと大輔はテレビを見てました
僕は自分の部屋で立て続けにタバコを何本か吸いました

部屋にハイテンションの大輔が入ってきてその日の幼稚園の出来事を話しました
「ダイ君もう寝なさい」僕が何度言っても足にしがみついて離れません

「やめなさい」と僕 払いのけました 大輔は転び 鈍い音がしました
僕とあいつは大輔の死体をバックに詰め込んで車走らせあの大きな川に
大輔をすてました
帰りあいつは「やっと二人になれたね」と笑いました
僕は全身に水をぶっ掛けられるような戦慄を覚えました

刑事さん僕たちをこんな人間にしたのは誰でしょう
日本ですか 教育ですか 政治ですか 神様ですか
大輔を殺したのは僕じゃない
大輔を殺したのは僕じゃない
僕じゃない 僕じゃない
僕じゃない

要は、「先生、聞いて聞いて！ 僕が悪いんじゃないもん、○○君の方がもっと酷いんだもん！」みたいな
小学生レベルの精神の幼稚な責任転嫁と同類のやり口。