奉教人の死(芥川龍之介)
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607 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 09:23:10.36
- 芥川龍之介『奉教人の死』
昔の長崎、あるキリスト教会に「ろおれんぞ」(洗礼名、今でいう「ロレンス」かな)という美少年がいた。
元々はクリスマスの夜に教会の前で行き倒れになっていた少年で、出身は「天の国」、父は「神」と笑ってはぐらかし
分かるのは親の代からの熱心なキリスト教徒であろうことくらい。
身分不詳ではあるものの、女性のように柔和で優しい雰囲気と驚くほどの信仰心の厚さから
長老や教会の兄弟たち(信徒仲間の男衆)に可愛がられていた。
ある日この「ろおれんぞ」に、教会に通っている傘屋の娘との不義密通の噂が立つ。
その娘は礼拝の際はいつも「ろおれんぞ」を見つめ、「ろおれんぞ」宛の恋文も見つかり、
恋心を抱いているのは間違いないようだ。
ただ周りが「ろおれんぞ」を問いただしても
「娘が勝手に思いを寄せて文を送ってきただけで口をきいたこともない」と一蹴。
敬虔な彼の言うことを周りは信じるしかないが、
「ろおれんぞ」を特に可愛がっていた兄弟分「しめおん」が更に問いただすと
「私はお前にすら嘘をつきそうな人間に見えるのか」と恨みがましく言い返し、
かと思えば泣きながら謝り判然としない。
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608 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 09:27:35.33
- (続き)しかしこの娘に妊娠が発覚、その父親は「ろおれんぞ」だと言う。
娘の父親は激怒。こうなっては言い訳できず「ろおれんぞ」は姦淫の罪で破門。
兄弟分の「しめおん」は裏切られた思いから「ろおれんぞ」をしたたかに殴った。
それから「ろおれんぞ」は異教徒はもちろん、掟破りとしてキリスト教徒からも蔑まれ、
病に苦しみ石を投げられ、非人小屋で乞食同然の辛い暮らしを送る。
それでもその信仰心だけは変わることがなく、夜更けに人知れずかつて居た教会に祈りを捧げていた。月日は流れ傘屋の娘は女の子を産む。娘は顔を見せにも来ない「ろおれんぞ」を恨むが、
娘の父も孫は可愛いもので、「しめおん」も「ろおれんぞ」の子とあって赤ん坊を可愛がった。
そんなとき、長崎が大火事になり、炎の中に赤ん坊が取り残された。
娘は泣き叫ぶが、あまりの火の大きさに力強い男であった「しめおん」も怯んで助けに行けない。
これも運命と諦めの空気が漂う中、炎の中に飛び込んでいく者が。
それは他でもない乞食姿の「ろおれんぞ」だった。
人々は驚きつつも「これまで姿も見せなかったくせに、
流石に罪悪感から助けに行ったと見える」と罵った。
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609 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 09:29:22.83
- (続き)間一髪、無傷の赤ん坊を抱え出てきて倒れこむ「ろおれんぞ」。
一連の出来事に娘は泣き崩れ叫んだ。「この赤ん坊は『ろおれんぞ』様の子どもではありません!私が隣家の異教徒と密通してできた子です!
私は『ろおれんぞ』様を恋い慕っていましたがあまりにつれないため、つい恨んで嘘を言ってしまいました。
けれども『ろおれんぞ』様は憎みもせずこの子を助け出してくださいました!
『ろおれんぞ』様の行いはイエスキリストの再来のごとくであり、
私の罪を思えば私は今すぐ悪魔に殺されても仕方ありません!」けっして嘘ではないであろう懺悔に息をのむ人々。
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610 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 09:30:56.68
- (続き)横たわるろおれんぞはわずかに頷いたものの、美しかった髪や肌は焼けただれ、
もう助からないことが明らか。
「殉教だ」との声があがる中、神父は娘の懺悔を受け止め、
その罪を悔い改め生きていくように言う。そこで神父があることに気付く。焼け焦げた「ろおれんぞ」の服から覗く乳房…。
「邪淫の罪を犯し教会を追われた少年『ろおれんぞ』は、娘と同じ女性だったのだ…!」
なんともいえない空気に膝をつく人々。聞こえるのは燃え盛る炎の音と誰かがすすり泣く声のみ。
「ろおれんぞ」はかすかに微笑みながら息を引き取ったーーーー健気な自己犠牲や信仰心の尊さも分からなくはないが、あまりに理不尽じゃないか…と思った。
「ろおれんぞ」がなんとなく「しめおん」に恋心のような感情を抱いているように読めるのがまた辛い。
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611 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 11:33:46.28
- 切ない…
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617 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/25(日) 15:26:01.35
- よくよく考えたらろおれんぞ性別で嘘ついてるじゃん
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648 名前:本当にあった怖い名無し :2012/11/26(月) 20:50:06.75
- >>617
性別偽るっつか男装するのもカトリックじゃ異端扱いじゃなかったっけか
ジャンヌ・ダルクが裁判にかけられたとき、その点でも追求があった筈