二人の未亡人(横溝正史)

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横溝正史「二人の未亡人」

へぼ詩人A男は娑婆より刑務所ですごした年数の方が多い累犯者。
何度目かの入獄の時、女房は一人息子A太郎を捨てて情夫と逃げた。
世間はへぼ詩人のまずい詩に注目し、
「冷酷な資本主義社会の犠牲者」A男を持ち上げ獄中記を出版した。

出所したA男は随筆や詩を書き、それは飛ぶように売れて
血の気の多い女が大勢付きまとった。

A男はまた入獄したが、刑期を終えた頃には世間から忘れられていた。
ちやほやされた時代を忘れられないA男は、
浅草の私娼窟で淫売を三人殺してまた入獄した。
世間は冷酷な資本主義社会の犠牲者に深く同情し、
二度と罪を犯させないよう支援する事を誓った。

A男を「支援」していた血の気の多い女たちの中で一番熱心だったのが、
閨秀作家B子と声楽家C子である。
二人は高価な土産を持って、互いに鉢合わせしないように気をつけて
A太郎一人が残された借家に日参した。
A太郎は両方を「お母さん」と呼ぶたびに50銭玉を貰った。
それはしまいには五円にもなった。


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B子とC子は
「我こそはA男の妻、A男の菩提を弔い遺児を立派に養育してみせる。
有名人フェチの誰かさんと一緒にしないでよね!」
と主張した。
A男はまだ未決囚なのだが、誰も矛盾に気づかなかった。

文壇を味方にしたB子は淑やかな喪服姿をとある新聞に載せ、
楽壇を味方にしたC子は艶やかな髪を惜し気もなく切り落とした姿をライバル紙に載せた。
それを見たB子もあわてて断髪にした。

判決の日、B子とC子の主催で二つの追悼式典が盛大に執り行われた。
A太郎はそれぞれに一時間ずつ出席する事になった。
B子主催の式典で、高名な学者が感動的な演説を終えた頃、号外が舞い込んできた。

【A男発狂す!!原因は罪の悔恨と死刑への恐怖ならん】

人々は舌打ちして退出した。
判決を聞かずに発狂する臆病者なんぞ知るか!というわけである。
恥と憤怒で震えるB子は、A太郎を罵倒して去った。
C子の方も似たようなものだった。

A男は死刑を免れ、瘋癲病院に収容されている。
B子とC子は、断髪にした事でファッションリーダーとして有名になった。
A太郎がどうなったのか、筆者は知らない。

「女と左翼と庶民はこんなに馬鹿なんですよ」感が後味悪い。

 

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