炭焼き又六(呪みちる)
-
724:本当にあった怖い名無し:2013/12/08(日) 23:33:42.80
- 呪みちるの短編
昔昔、旅の僧が東北の山中に差し掛かった時、額に傷がある大男を見かける。
男は正気ではなく、ボロボロの衣類を身にまとい
子どもの骨と女物の着物を抱えて彷徨っていた。
麓の村にたどり着き村人にその話をすると「それは炭焼きの又六だ」と言う。
又六は元々腕の良い猟師だったが、粗暴で自信過剰で村人から疎まれていた。ある日又六が家に帰ると若い娘が勝手に又六の食糧を貪り食っていた。
おぬいと名乗るその娘はここよりさらに奥の村の生まれで
売り飛ばされそうになっていたのを命がらがら逃げ出してきたと言う。
何でもするからここに置いてくれと頼み込むおぬいに又六は渋々承知。
以後おぬいは又六に献身的に尽くし、
今まで優しさや情というものに無縁だった又六も心を開く。やがておぬいは又六の子を身籠り又六は猟師業を辞め炭焼きに転身する。
その頃には又六もすっかり丸くなり村人とも良い関係を築いていた。
娘が生まれ、ますます幸せになる又六。
村人も「これも全部おぬいさんのお陰だな」とほっこりする。しかしその幸せも突然終わりを告げる。
ある時又六が家に帰ると娘は山犬に襲われズタズタに引き裂かれて死んでいた。
おぬいの姿はなく、ただ血の付いた着物だけが残っていた。
幸せから一気に不幸のドン底に墜ちた又六は発狂し娘の亡骸と妻の着物を抱え
おぬいを捜し求め今も山中をさすらう。せめておぬいの生死だけでも分かれば、と話す村人に僧侶は
「いや、おぬいは絶対に見つからない」と断言。
なぜ分かるのかと食って掛かる村人に僧侶は
「又六は山犬を仕留めた事はなかったか?」と確認する。
確かに又六は以前大きな山犬を殺していた。
僧侶はおぬいはその山犬の連れ合いで
復讐のために人間に成り済まして近づいたのだと語る。
又六を殺す事は簡単、しかしそれだけでは復讐にはならない。
だから殺す前に愛や幸せを教え与えたのだと。
幸せの絶頂から叩き落とす事でおぬいの復讐は完了したのだと話す。「いくらなんでも自分の子どもに手を掛けるなんて…」
とおののく村人に僧侶は呟く。
「それほどに山犬の夫婦の絆は強く、おぬいの夫への愛情も深かったのだ…」
-
725:本当にあった怖い名無し:2013/12/08(日) 23:47:54.54
- 日本昔ばなしに本当にありそうな話だ