失はれる物語(乙一)

110本当にあった怖い名無し:2014/01/29(水) 21:51:21.78
乙一 「失はれる物語」

事故により片腕の感覚のみを残す主人公。
音も光もない日々の中、妻が腕の上で奏でるピアノの指使いは、
いつしか会話の様に感ぜられるようになっていた。

事故に遭う前に聞いた音色は妻の感情を伝え、
それに指先の僅な動きで答える主人公。
しかし甲斐甲斐しく演奏を続ける妻の指先は次第に疲れの色を表してゆく。
自分の為に憔悴する妻を思う主人公は、それ以来指先の一切の動きを止めた。
指先を針でつく医師をも欺き、完全に感覚を失ったとの診断をうける主人公。

それを知ってなお演奏を続ける妻の演奏には
しだいに生き生きとした以前の魅力が戻っていった。
そしてついに妻は見舞いに来なくなった。

彼女は新たな幸せを見つけるのだろうと主人公は思う。
今もなお音も光もない毎日を、彼は死ぬまで生き続けていく。

 

失はれる物語 (角川文庫)
失はれる物語 (角川文庫)