夢売ります(ロバート・シェクリイ)
-
233:1/3:2014/02/02(日) 16:25:23.19
- ロバート・シェクリィ「夢売ります」
A氏は尾行がない事を確かめてから、
がらくたの散らばる小路の奥のみすぼらしい小屋に入った。
友達から聞いて訪れた、夢を売る店である。店主はマッドサイエンティストで、ある種の薬物と特製装置で客が望む夢を見せる。
たかがヘロインの幻覚に法外な金を取るなんて、と憤慨するA氏に店主は、
自分が提供するのは薬物の幻覚ではなく無数に存在するパラレルワールドがどうのと、
わけのわからぬ事を言った。お代は見てのお帰りで結構、
どうやらあなたはハーレムを持ったり世界を支配したりよりも
南の島でのんびり暮らす夢をお望みのようですな、
と図星をさされたA氏。
-
234:2/3:2014/02/02(日) 16:28:09.85
- …店を出てもA氏は南の島の事を考えていた。
心に秘めたいかがわしい欲望も。
だが、わずか数時間の夢を見る為に
全財産と寿命十年(神経系に負担があるそうだ)を投げ出すなど馬鹿げている。帰宅すると妻が若いメイドの怠け癖を愚痴る。
子供たちが色々ねだるので、株が値上がりしたら買ってやるから
今年は我慢しろ、と言い聞かせる。
世界各地で紛争が起きている。
息子は、普通の爆弾と原爆、水爆、コバルト爆弾など
ニュースで知った爆弾の違いを聞いてくる。
メイドがいきなり暇を取った。
子供たちの寝静まった夜、A氏は妻と二人でヨットに乗って愛を交わした。
世界情勢がまたきな臭くなった。
-
235 :3/3:2014/02/02(日) 16:31:09.74
- …という夢からA氏は覚めた。
戦争で失った最愛の家族と平凡な過去の夢を見て満足したA氏は
抱えてきた全財産、すなわち軍靴一足、ナイフ一挺、銅線二巻き、缶詰三個を支払った。暗くなる前にシェルターに戻らなくては。晩飯の配給にあぶれてしまう。
A氏は携帯用ガイガーカウンターで放射線量の少ないルートを探して、
かつて都市だった瓦礫、立ち枯れた樹木、
元は人間だった灰の山を横目に見ながら帰路を急いだ。
-
236 :本当にあった怖い名無し:2014/02/02(日) 18:57:15.72
- 世にも奇妙な物語でやってたな
後味悪いというより悲しい話だ