廃用身(久坂部羊)

881 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/09/24 12:08
『廃用身』久坂部 羊を読んで凄い衝撃を受けた。
このスレで紹介しよう!て意気込んで作中で起きた事件のソースも付けた方が親切だよな、
ググっとこう…て検索してみたら全くの架空の話だとわかり、愕然…

だって、
「本書に登場するお年寄りは一部実名で書いています。
 実名使用を了承してくれた方々にお礼を申し上げます」だの、
奥付の連名での著者略歴だの…
奥付が2つあるから変だとは思ったけど、漆原 糾が自殺していろいろややこしくて、
漆原と矢倉の連名にした後、あらたに久坂部のペンネームにしたんだな、くらいにしか思わなかったよ。

読後、興奮して「そういえば、新聞広告の週刊誌の見出しによく
『Aケア』とか『老人虐待』ってあった気がする!」とか思ったのは一体…
更に、立岩武の殺人事件と漆原糾の六甲駅での自殺は「覚えてるよその事件!」とまで思った…
なにを覚えてたんだ漏れ…
友達にも「読んで!」て勧めた上、
「新聞でこんな事件あったの、うっすら覚えてるよ。つながってたんだね」
「最後の事件なんて2003年4月17日だよ、最近いろんな事件あるから衝撃受けてもすぐ忘れるもんだね」
なんて言っちゃったよ。完全にフィクションだなんて…あ~あ~どうするよ大恥もいいとこだ
せめてググってみて良かった。面倒だからソースなしで書こうかとも思ったんだ。やばかったな~


902 名前:881 投稿日:03/09/25 13:12
廃用身とは脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、回復の見込みのない手足のことをいう医学用語。

前半はデイケアのクリニックを経営する漆原糾(享年37歳)の遺稿で、医学書っぽい感じ。
頑張れば歩ける、と努力や根性でリハビリをする老人が、
もう回復しないと悟り気力をなくして死ぬエピソード等の紹介の後、
乙武(名前は変えてある)やパラリンピックの選手を見て、
麻痺して動かない部分を切除し、体重を軽くした方が、介護疲れや痴呆の進行を軽減したり、
本人が動きやすくすることが出来るのではないか、という考えに至る。

岩上武一(仮名で後に本名、立岩武で登場する)という港湾運送を興した社長で
神戸の豪邸に住む61歳の男性が、最初の切断手術を受ける。
下半身と左上肢が完全に麻痺している。体重が90キロあるので、介護も3人がかり。
家庭では暴君だったのが、病気で社長の座を独身の息子に引き継いだ後、
今まで養ってきたのだから労わられて当然と思っていたら、
それまでの横暴への反動で息子(38)が暴君と化し、奥さん(59)ともども岩上にひどい虐待を始める。
床ずれの悪化や足のガス壊疽の為、足を切ったほうがいい、と漆原が提案。
息子と奥さんはあっさり賛成するが、岩上は動揺する。
結局両足、左腕を切除する。デイケアのスタッフ達は切除に賛同するが、
Uという女性看護助手は「うまく言えないがなんだか恐い」と畏れる。
岩上はわずかに残った太ももを交互に動かし、残った右腕で支えて、身軽に移動できるようになり、
みんなを驚かせる。傲慢だった性格も、温和で気さくになり、躁状態になる。


904 名前:881 投稿日:03/09/25 13:17
明らかに良くなった岩上を見て、
麻痺した体を持つ他の老人たちも、自分にもやってほしいと希望するようになる。
最終的に13人に『Aケア(Amputation=切断)』を施す。
痴呆が少しずつ改善されたり、いきいきと若返ったりした例が紹介される。
麻痺した部分は、痺れたり、冷たさを感じたり等の不快感があり、
それを切除した開放感や、今まで不要となった手足に流れていた血量が
有効に脳等に流れた為の改善によって、痴呆が回復したりするのではないか、と考える。
Aケアチーム対手術を受けていない人チームで、風船バレーなどのゲームをすると、Aケアチームが圧勝する。
(なんかこの場面『レナードの朝』を思い出した)

一方、その異様な外見を見ることにいたたまれず、看護助手のUは退職する。
心臓移植や人工授精も、世間に受け入れられなかったが、今では画期的な療法として通用している。
Aケアもこれからの医療、介護にとって必要になっていくのではないか、
私がその先駆者になろう、とAケアに対する希望を語る。


905 名前:881 投稿日:03/09/25 13:18
後半は、漆原に執筆を勧めた編集者、矢倉俊太郎による手記。
第一稿が仕上がった頃、矢倉に一通の差出人不明の手紙が届き、
「ウルシハラは医者ヅラしているが仮面をはずせばケダモノ」等と書かれている。
その4ヶ月後、
『週刊文愁』に「戦慄のデイケア」「クリニックぐるみで老人虐待」といった暴露記事が掲載される。
そこから次々と週刊誌、ワイドショーに取り上げられ、
その扱いは全て「Aケア」を非道な残虐行為だと報道していた。
漆原やスタッフ個人への中傷記事も相次ぐ。
その頃矢倉の元にまた差出人不明の手紙がくる。「ザマアミロ」とだけ書かれている。
あえて原稿を出版して理論と効用を説明したほうがいい、と矢倉は執筆を急がせるが漆原はなにか迷っている。
医学的に間違った誹謗記事が現れたのをきっかけに、オピニオン誌『言論』に反論の論文を掲載する。
同時期に大阪中之島で『遺棄老人事件』が起き、老人の悲惨なニュースが立て続けに世間を騒がせる。
Aケアからインスパイアされたという内容のネット小説も現れる。(アドレスも載っていたが省略)
介護問題が取り沙汰され、2003年1月7日『メディア23』に漆原が出演、
キャスターと対談し、介護危機について語る。
漆原の意見を受け入れる空気になっていた。
1月15日に初の長男も誕生する。慎と名づける。

906 名前:881 投稿日:03/09/25 13:19
2月5日未明、第一症例の岩上武一こと立岩武は、自宅で息子と妻を殺害した後、自殺する。
遺書代わりにカセットテープを残し、犯行時にも録音していた。
そのテープを聴き起こしての描写。(ここエグい)
3本の包丁とナイフで、息子を自室に呼び寄せて合計49箇所の刺創と切創、
致命傷は頚動脈の切断と心臓の刺創、腎臓の出血によるもの。15箇所の傷に生体反応がなかった。
息子殺害の後、「えー、今、終わりました」と解説を録音。
その後、車椅子の背もたれの内側に重さ10キロの金庫を乗せ、就寝中の妻を何度も轢く。
水を飲んだ後、2度目の解説。最後の録音として、遺言を始める。長い沈黙のあとテープは切れる。
おそらく切れたことに気づかなかったのだろう、裏面には何も録音されないままになっていた。

907 名前:881 投稿日:03/09/25 13:25
再びAケアが叩かれる。漆原のクリニックは閉鎖する。
漆原は積極的にマスコミに登場し、形勢を盛り返していたが、
週刊誌に小さな誹謗記事が載ったあと、突然失踪する。

記事は小学校時代の同級生の証言。漆原が蝶の羽をもぎとったり、
カブトムシの足を取って身動き出来ないのを飽きずに眺めていた、というものだった。
3通目の手紙が矢倉に届く。
「ウルシハラが消えた。この世から消えればいい。アイツはもっとヒドイことをやる」といった内容。
失踪から2週間後の4月15日、矢倉の携帯に漆原から電話。
ひどく酔っ払っており、小学校時代の友人を訪ねていた、と話す。
同級生の目に爪をたてたり、ネコの死骸を触って遊んだりしていた思い出を指摘されたという。
「自分が思っているのとまったくちがう自分がいたんです」
その後、自分が老人に親切だったのは優越感からだった、老人は人に迷惑をかけるのをいやがるから、
迷惑をかけずにすむならと喜んで手足を切断した、と話し出し、
「年寄りにAケアを勧めるのは楽しかったですよ。じわじわ納得させていくのは、なんともいえない快感でした」
と口にする。

2003年4月17日早朝、六甲駅近くの線路上で漆原の遺体が発見される。
自分に致死量の筋弛緩剤と麻酔を注射し、死亡した後始発電車に首を轢断されていた。
ズボンのポケットに遺書らしき紙が入っていた。サインペンで一行、こう走り書きされていた。

「頭は わたしの 廃用身」


908 名前:881 投稿日:03/09/25 13:26
葬儀の後、それ以前にAケアを施術した大西マサが自殺して書いた
「決して足を切りたくはなかった」という遺書を漆原が見ていたということがわかる。
漆原が12歳のときに描いた異常な漫画の紹介、Aケアを受けた13人の検証。
漆原の妻は夫の自殺後、同情的に報道されるが一段落すると一転してバッシングが始まる。
原稿の企画も中止になるが、矢倉は出版社を変えてでも出版しようと決意する。
矢倉が夫人を訪問したその日の夜、夫人は六甲駅のホームから3ヶ月の慎を抱いて特急に飛び込み自殺をした。
慎は母親の手から離れたらしく、かろうじて命を取り留める。
夫人の矢倉に宛てた遺書には、
「すべては、はじめから存在しなかったものと思ってください。
 漆原の仕事も、闘いも、わたしも、慎も、すべて」
と書かれていた。

最後にエピローグで、矢倉は差出人不明の3通の手紙を書いた人物と会う。
看護助手のUだった。彼女は漆原と関係を持ち、想像妊娠の騒ぎを起こした後、
院長室であるものを見せられショックを受け、クリニックを辞めていた。
それを矢倉も見る。標本瓶に入れられた、老人の切断部分のホルマリン漬けだった。


926 名前:881 投稿日:03/09/26 12:33
落ち着いて読み返すと、矛盾してるとこや大袈裟な点にも気づくんだけど。
実話とばかり思ってたからさ~車椅子で介護してくれた家族を轢き殺すって事件、ほんとなかったっけ?
医者が線路上で首轢断って自殺もあったような気がしてたんだけど、なかったかなあ~
友達に「フィクションだったよ…」と言うと「そりゃそうだよ、ありえないもん」と言われたよ。

だけど作者が医者で、医学用語や実例がきちんとしてて凄い説得力だった。
多分、実際に思いついたんじゃないかな。
Aケアを現実にしてみたらどうなるだろう、て空想してシュミレーションしたのがこの作品。
実話だと思ってた時は、立岩の殺人事件の詳細やネット小説のグロ描写は
「うわ、エグい」と思ったんだけど、あれが作者の創作だったら、
作者本人が漆原とだぶってる感じ。隠された残酷性の具合が。
長いグロ描写が引用でなく本人の創作なら、本人の趣味嗜好が出てるってことだもんね…
「もしAケアを実際に施術したら?」て発想から、
陰惨な結末、自分自身の闇の部分を想像していった末に、
「頭は わたしの 廃用身」
てキーワードが出たんだとすると、それもまた後味悪い…
そしてうちのばあちゃん(腰曲がってるけど健康)にはこの本の話は出来ないなあ…


927 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/09/26 13:15
ま、義肢装着や機動性改善の目的で肢体を切っちゃう処置は本当にあるからね。
数年後、医学の発達により「早まった事をした!」という事も当然あるし。

 

廃用身 (幻冬舎文庫)
廃用身 (幻冬舎文庫)