カラス(重松清)

681 名前:1/3 投稿日:2007/07/03(火) 23:55:42
重松清の『カラス』

主人公はバブル時代に不動産屋にのせられて
25年ローンで高級マンションを買い、大損してしまった妻子持ちの男。

四月のある日、娘とゴミ捨て場に来た男は一羽のカラスを見つける。
気にせず男が去ろうとするとカラスは嘴をゆっくりと開き、『クレエッ』と鳴いた。
男は驚き、肩を跳ね上げる。それくらい鳴き声は『くれ』に似ていた。

六月。男が入居してから三年目にして初めて榎田一家が越してくる。
話好きの榎田は朝方にカラスを見ていた主人公に声をかけ、カラスについて少し話した。
すこし仲良くなったのか、その日以来、榎田と主人公は毎朝同じバスに乗り、
駅につくまでおしゃべりをするようになる。

そんな日がしばらく続くと、普段朝のバスで仮眠を取っていた主人公は、
だんだんと睡眠不足で疲れが溜まり始め、榎田の話を聞くのが煩わしくなってくる。

そんな中、榎田の妻は、尋ねてきた客に
『バブル期みたいな値段じゃとてもじゃないけどこんなところ買わないわよ』と愚痴り
それを盗み聞きしていた主婦に聞かれてしまい、マンションの中で浮いた存在になってしまう。

梅雨があけると、ゴミ捨て場のカラスが急に活発化し、ゴミを荒らすようになった。
そこで、マンションの主婦達は自治体を設置し、カラス対策を講じるようになる。
もちろん、自治体には榎田の妻は入っておらず、ゴミの出し方が変わったのも
知らされてはいなかった。そのことでまたいじめを受けてしまう。

秋の彼岸を過ぎた頃、カラスが人を襲うようになった。
その頃には榎田は主人公に話し掛けなくなっていた。
バスであっても、挨拶をするだけで、椅子に座り、目を閉じて駅へと運ばれていく。
眠ってはいない。額に汗を滲ませ、低い声で唸り続け、時々、唸り声が
甲高い絶叫に変わって、運転手のハンドル操作を危うくさせる。


682 名前:2/3 投稿日:2007/07/03(火) 23:56:32
一方、自治体の方では、ある対立が起きていた。中立の立場にある主人公の妻は、
榎田の妻を徹底的にいじめようという話を出し、対立は停戦状態にはいった。

主人公の妻は榎田宅へ行き、『本当は奥さんとなかよくしたいのよ』と
芝居を打った。、3日もたつと榎田の妻は完全に信じ込み、他の主婦の悪口を言うようになった。

もう芝居をする必要はない。
最後の日の帰り際、トートバッグを肩にかけ損ねたフリをして、バッグの中身を榎田の妻にみせた。
そこには録音ボタンが押し込まれたカセットテープレコーダーが入っていた。

榎田の妻は息を呑み、顔色を失い、玄関マットの上にへたり込んだ。
『じゃ、またね』とドアを閉めると、榎田の妻の号泣の声が聞こえる。
それを聞いて主人公の妻と、外でまっていた主婦は顔を見合わせてにやりと笑った。

その日の夕方。榎田の妻は幼稚園バスの出迎えには来なかった。
主婦の誰かが『預かるように言われました』と言うと、先生は訝る様子もなく、
榎田の息子・太郎をバスから下ろした。

普段なら公園で子供たちを遊ばせる母親達が、その日は、
無言で示し合わせて。早々に部屋へともどった。

一人残された太郎くんは、母親を待って、ゲートの下にたたずんでいた。
しかし、いくら待っても母親はこない。そのうち泣き出した。
主人公の妻はその様子をベランダから見ていた。
『ママ!ママ!』という鳴き声も聞いた。

おなかが空いたのか、太郎くんは泣きながらバッグから弁当箱を取り出し、
中からリンゴを取り出し、食べようとした。
その瞬間、これまでにないようなカラスの鳴き声がマンションに響き渡った。

翌朝の新聞の地方面には『幼稚園児、カラスに襲われ重症』という記事が出た。
その後、榎田一家は姿を消した。


683 名前:3/3 投稿日:2007/07/03(火) 23:57:13
十一月の半ば。
娘とおもちゃ屋に行くためにバス停へと続く坂を下っていた主人公は、
向こうから榎田が歩いてくるのを見つける。
そして、声を掛けられた。
榎田はやつれていた。ポケットからドングリを取り出すと、
それを娘に渡し、『向こうにもっと大きなのがあるよ』といった。
主人公は娘に拾ってくるよう促すと、娘は素直に従った。

『再来週、引っ越すんですよ』榎田が笑いながら言った。
その冷たい笑顔にぞっとする主人公。
『新しい人が来なかったら、今度は誰になるんですか?』
『お宅は大丈夫だといいですね』と言われ、主人公はたじろいた。

その頃から、マンションにはカラスよけの目玉がつるされるようになった。

夜のゴミ捨て場、榎田家のゴミバケツが置いてある。
横には穴が穿たれ、亀裂が走っている。

カラスは昼間、ぽつんとそのゴミバケツに留まっている。

バケツの蓋の上には、昼間のカラスの代わりに、
くしゃくしゃになったマフラーが載せられていた。
色までは見分けられないが、濃い下地に細かい模様が入っている。
血の染みが付いてるようにも、ただの斑模様のようにも見える。
クローゼットの中、ネクタイのとなりにソレがかかっていたような気がする。
みぞおちが軋む。
逃げるように目をそらし、二度と振り向くまい。と決める。
私は歩き出す。
ロータリーを左へ、うつむいて歩く。
もう何処にも行けはしないんだと、家へ帰る。
私の知らない町を、瞬きしない無数の目玉がじっと見つめる。


684 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/03(火) 23:59:35
最後のくだりはほぼ原文そのままです。

685 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 00:14:41
これって榎田の次に値段が安かった主人公ファミリーが次の標的に
なるんだっけ?

686 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 00:18:00
>>685
そう。
ものっそ怖いよ

692 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 00:46:19
乙。こういうジメジメした苛め話は本当に後味悪いよな。
しかし、「誰が幾らで買った」なんて情報、どっから入手するんだろう。
一致団結していびってるんだから、どうにかして手に入るんだろうが。

しかし、それだったら、黙って次の犠牲者になるよりは、
一番高額で買った奴を「バブルに踊ったバカ晒し上げwww」とかして反撃すりゃいいのにな。


694 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 00:55:00
>>692
榎田妻がちょうどベランダで話してて、
それを洗濯物を干していた隣の奥様(佐伯さん)が
聞いちゃったってワケ。

699 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 01:34:25
>>681-683
途中までひどく後味悪かったんだが、
>バケツの蓋の上には、昼間のカラスの代わりに、
からポエム調になったので笑って後味がよくなったw

704 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 02:53:26
>その日の夕方。榎田の妻は幼稚園バスの出迎えには来なかった。

>『ママ!ママ!』という鳴き声も聞いた。

母親は何してたんだ
号泣してる場合じゃないだろう

と そこだけ後味悪かった
何かあるの? 騙されてどっかに連れ出されてたとか


709 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/04(水) 04:25:41
>>704
母親も限界だったんだろう。
虐められ続けてやっと理解者が現れたと思ったら
それも虐めの一つで見せつけるように裏切られた。
ぷつんと心の糸が切れちゃったんじゃない?
子供を守れないくらい追いつめられてたんだろう。

 

見張り塔からずっと (新潮文庫)
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