ホーム » 小説 » 小説/は行 » 「非情の町」に雨が降る(赤川次郎)

199 名前:1/4 :2009/12/23(水) 18:22:33
赤川次郎の短編集「ふしぎな名画座」から
「〈非情の町〉に雨がふる」

この短編集に出てくる名画座とは人生に躓いたり悩んでいる人たちの前に突然現れ、
その人にとって警告やヒントになるような過去の名画を上映して見せる。

裸一貫から事業を始め、今や大企業グループの社長に上り詰めた古河健三は今、重大な問題に直面していた。
大学生の一人息子雄夫(ひろお)が夜の公園で同じ大学の女子学生を襲い、
通りかかった警官に婦女暴行の現行犯でつかまったのだ。
一人息子を大切に思うのはもちろんだがそれ以上に過酷な苦労の末手に入れた今の地位を失うことを恐れた
健三はなんとか息子の罪をもみ消すことはできないかと、顧問弁護士の石上に相談する。
石上はここで腕を見せれば自分の地位も上がると懸命に知恵を働かせ、ある提案をする。
暴行の被害者沼田浩子は調べたところ普通の真面目な娘であるが、
それが実は裏では男性経験豊富な遊び好きな女だったということになれば話は違ってくるだろう。
雄夫が襲ったのは現行犯で否定はできないが、それは女のほうからの誘いだった、となれば
受ける印象が180度変わる。うまくいけば執行猶予にできるかもしれないと。
その案に賛成した健三は金はいくらでも出すから、とことんやれと石上に命令する。


200 名前:2/4 :2009/12/23(水) 18:23:32
石上はまず、浩子の父親に会社の帰り道に声を掛け、
「すみません、これを」といきなり分厚い紙包みを手渡し
面食らう父親に「古河さんからのお詫びです」と告げる、
勿論激昂され突き返されるがそれは計算のうちで
こっそりと父親が現金を受け取った場面だけを雇った男に写真に撮らせておいた。

さらに彼女の大学の中で親が古河のグループ企業の従業員をしている男子学生を数人調べあげ、
言うことを聞かなければ親をクビにしたり、何らかの罪をでっち上げ訴えると脅し、
浩子と肉体関係があった、男好きの淫乱女だったと嘘の噂を流させる。

その写真と噂話を週刊誌に送り付けるとやがてその記事がこぞって掲載されるようになる。
まるで襲われたのは自業自得、金目当てで大企業の大人しい息子を陥れた悪女などと。
暴行事件を乗り越えようとしていた矢先に身に覚えのない誹謗中傷や好奇の目に晒され浩子は絶望の淵に追いやられる。
彼女の友人たちが必死で否定して回っても焼け石に水状態だった。
その事に暴行した当の雄夫は胸を痛め、父親に止めてくれと懇願する。
彼は気弱な性格で人付き合いも苦手で友達もいない孤独な男だった。
唯一優しく接してくれた浩子に密かに好意を抱いていて、うまく告白できない不器用さが暴発した末に
やってしまった暴行を心の底から悔み悩んでいたのだった。
だが健三は聞く耳を持たず、お前のためだと一蹴する。それでも父親に抗議しようとした時、
弁護士の石上が駆け込み浩子側が告訴を取り下げたと告げる。
彼女の父親が会社の上司に週刊誌のことでからかわれ娘を侮辱された怒りで相手を殴ってしまいクビになったこと、
母親と浩子自身もノイローゼで家から一歩も出られず一家はめちゃくちゃになり裁判どころでは
なくなってしまった事を喜々として報告し、健三はそれを聞き大いに喜ぶのだった。


201 名前:3/4 :2009/12/23(水) 18:24:22
雨の降る夜、珍しく一人町をぶらつく健三、胸中は複雑だった。
自分のしたことの非道さを誰よりもよく知っていて胸が痛まないわけではなかったが、
息子と自分の地位を守るため仕方がなかったのだと自らに言い聞かせていた。
ふと、気がつくといつの間にか見覚えのない道に入り込み、そこにポツンと古びた名画座が立っていた。
若いころ映画に熱中していたことのある健三は懐かしさと好奇心で中に入ってみる。
上映していたのは『非情の町』という知らない映画だった。
モノクロ画面の懐かしさに微笑んでいたが、物語が進むにつれ表情が強張ってくる。
まるで今度の事件を思い出させるような内容だったからだ。

  【大戦後のドイツで駐留している米国の若い軍人四人が、美しいドイツ娘を強姦して軍法会議かけられる。
   娘の家族が望むのは死刑。弁護に立った中佐は彼らの罪を憎みながらも、
   その娘の方が四人を挑発したという印象を裁判官に与え、四人は罪を逃れる。
   ―しかし傷つき、名誉も失った娘は自殺してしまう・・・・・。】

映画が終わり呆然と名画座を出る、ふと思い返せば受付も他の客もいない奇妙なところだった。
夢を見たような何とも言えない気分のまま家に帰ると、弁護士の石上があわてた様子で飛び出してきて告げる
「大変なことが・・・が、自殺を」
それを聞き、しばし呆然としながらも妙に納得する。あの映画はこの事の「予言」だったのかもしれないと
「まぁ、可哀そうだが仕方ない。その娘はノイローゼだったのだし、いずれこうなっただろう・・・」
それを聞き石上は戸惑い言う
「社長!しっかりしてください、自殺したのは雄夫さんです」
だが健三にはその言葉は届かなかった・・・


202 名前:4/4 :2009/12/23(水) 18:26:09
雄夫の葬儀の日、ぼんやりと息子の写真を眺めていると、人々のどよめきで我に帰る。
沼田浩子が焼香にやってきたのだ。
大勢やって来ていた報道陣に詰め寄られながらも、静かに手を合わせる浩子。
その姿にきょとんとしながら尋ねる健三
「あんた・・・自殺したんじゃなかったかね、そうだよあの名画座で見たんだよ・・・おかしいな・・・確か・・・」
まとわりつく報道陣を無視して歩いて行く浩子。
ようやく一人になったとき、大学で彼女の嘘の噂を流した男子学生の内の一人が現れ、今までの仕打ちを謝罪してきた。
静かにそれを聞きながら浩子は言う「拒む勇気があれば古河君も死なずにすんだかも知れない」と。
そして次からは勇気をもって生きてくれと頼むと彼女は去っていった。
もう浩子が大学に戻ってこないことを人から聞いていた彼は振り出した雨の中を濡れるまま立ちすくしていた。
まるでその雨が、自分の過去を洗い流してくれるのを期待しているかのように。

強姦犯の息子は自殺してその父親は頭がちょっとイかれてしまって、一見めでたしに見えるけど
雄夫が良心の呵責で死ぬなら死ぬで気の利いた遺書でも残してくれればいいのに、
それをしないから浩子の名誉が一つも回復せず、一家はめちゃくちゃなまま。
おまけにマスコミにも何かまた書かれるだろうし、それを考えると後味悪い。


204 名前:本当にあった怖い名無し :2009/12/23(水) 21:54:28
>>202
>強姦犯の息子は自殺してその父親は頭がちょっとイかれてしまって、一見めでたしに見えるけど
見えないから
一見しても後味悪いだろこれ…
強姦犯は死ぬべきだけどこの息子は気の毒だ

205 名前:本当にあった怖い名無し :2009/12/23(水) 22:36:26
>>204
だから死んだからいいじゃん?

206 名前:本当にあった怖い名無し :2009/12/23(水) 22:46:25
>>205
>>204は「強姦犯は死ぬべきだけどこの息子は「例外的に」気の毒だと感じてしまう」と言ってるのかと
罪を償うつもりがあったのに生きては償いきれなかった…という感じだからかね

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