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714 名前:本当にあった怖い名無し :2011/08/29(月) 13:53:36.55
この前読んだ小説

高校生の少年が好きな人を弔っている時に、兄が死んだとの連絡が届いた。
事故で植物状態になっていた兄の遅い死に、知らせる母の声は悲しみもなく冷淡なものだった。
東尋坊にいた少年は、数年前にそこから転落して亡くなった少女の死を悼みつつ帰宅しようとしたが、
つい東尋坊から足をすべらせてしまった。そして目覚めると、少年は何故かパラレルワールドにいた。

初めは何も気づいていなかった少年だが、家に着いてから始めて異変を悟る。
一家は父母と少年と兄という構成なのだが、何故かそこには見知らぬ女性がいた。
その女性とは、少年の世界では生まれる事なかった、少年の姉だった。
少年の父母は子供を二人までつくろうと決めていたが、姉が死産したため、少年をつくった。
少年が突然迷い込んでしまったこの世界は「姉が無事に生まれ、代わりに少年が生まれなかった世界」だった。

少年と姉は、はじめは戸惑いつつもやがて状況を飲みこみ、二つの世界の違いを少しずつ語りあった。
どちらかというと暗い性格の少年に対し、姉は非常に明るかったが、瞳の色などはそっくりだった。
まず初めに気づいたのは、家庭内に飾られていた皿の有無。
その皿は少年の世界では割れて捨てられていた。
皿は父母が結婚記念につくったもので、二人のツーショット写真がプリントされていた。
父母は少年が物心ついた頃にはそれぞれ不倫しており、
少年はその事を知っていたが、父母は互いには知らなかった。
お互い様なのに、ある時伴侶の不倫を同時に知った父母は怒り狂い、派手な大ゲンカが行われた。
皿はその時に割られ、それ以来、冷え切っていた夫婦の仲はより険悪で攻撃的なものになり、
兄はそのせいでやさぐれ、自分探しの旅に出た先で事故に遭った。
だが、姉の世界では、その大ゲンカが行われた日、姉が泣き落としで父母を咎めた事で、
父母は今までのすれ違いを改め、不倫をやめ、雨降って地固まるで年甲斐もなく熱々な夫婦になったのだという。
そして皿は割れず、兄も死なずにいた。

少年は、今まで自分はだめな親の被害者で、家庭不和はどうしようもないものだったのだと思っていたが、
姉のように動いていたら全てが好転していたのかもしれない、全ては自分の怠惰のせいだったのでは……と思い知らされた。


715 名前:本当にあった怖い名無し :2011/08/29(月) 13:55:56.62
少年の世界では、例の大ゲンカ以来、少年は家でまともに食事をとれないようになった。
母は、兄を「母派」、少年を「父派」と何故か勝手に定めたようで、
食事を母と兄との二人分しかつくらなくなったからだ。
少年の食事は専ら、安さに定評のあるうどん屋で行われるようになった。
そのうどん屋の老いた店主は、脳溢血で倒れ先日うどん屋は閉まる事になった。
だが、姉の世界ではそのうどん屋は今も開店されていた。

うどん屋の近所には巨大なイチョウの木があり、その木が道に大きくはみ出ているために交通は滞りがちだった。
倒れた店主は、その渋滞に引っ掛かったために病院に着くのが遅れ、手遅れになっていた。
だが姉の世界のイチョウは以前に切り倒されており、そのために店主は助かった。
イチョウが切り倒されたのは、以前に姉がバイクでイチョウに当たって大怪我を負ったためだった。
怪我はやがて治ったが、事故を知ったイチョウの持ち主は、
既に亡くなっている家族の思い出があるからとそれまではイチョウの存続を頑ななに守っていたのに、
人さまに怪我をさせたのは申し訳ないからと、泣く泣く自分からイチョウを切るように言ったのだった。

少年と行動を共にしている時に、姉は下級生に呼び出されたからと、その人物のもとへ向かった。
少年もついていくと、姉を呼び出した人物とは、東尋坊で死んだあの少女だった。
数年前に死んだ記憶の中の少女より成長し大人びており、なにより雰囲気が違った。
少年の知る少女は、父が借金をつくったために転校を余儀なくされこの町にやってきたという経緯を持ち、
貧窮により、沈鬱とした物を抱える人物だった。
だが姉の世界での少女は明るい性格で、姉を慕いふざけて抱きついたりするような子だった。

その違いを知らされた姉は、それでも、どちらの少女もそっくりだと言う。
少女は精神的に不安定なところがあり、身近な人に依存して模倣しているだけなのだと姉は言う。
だから少女は姉の世界では姉を模倣して明るく振る舞い、振る舞ううちに本当に明るくなっていった。
そして少年の世界では、少年を模倣し、少年の抱える悲しみを映して暗くなりやがて死に至った。
同調する相手によって少女の明暗が分かれというのなら、少女は自分のせいで死んだも同然なのだと少年は知った。


716 名前:本当にあった怖い名無し :2011/08/29(月) 13:57:40.32
自分が生まれてこないで姉が生まれてきた方が世界はなにもかも好転していた、
少年はそう思い、自分を責め、そしてなにもかもが悪い方向に進んだ元の世界に帰る事をためらった。
いっそ死んでしまいたい、そうつぶやいた瞬間に、気づけば少年は元の世界の東尋坊の前に戻っていた。
丸一日ほどたっているようで兄の通夜には間にあわなかったようだった。
父母は怒っているだろうなと少年は想像する。
携帯電話にすぐに着信が入った。それは姉からの電話だった。
姉の世界で少年は姉に電話の番号を教えたが、姉の世界では何故か少年の電話は使えず結局役に立っていなかった。
電話に出ると、姉は落ち込んだままに突然元の世界に戻ってしまった少年を心配しているようだった。
慰めの言葉の後に「イチョウを思いだして」と彼女は言い、そのまま電話はふいに途切れた。
目の前に海に飛び込むか、険悪な家に帰るか、少年はその二択を頭に思い浮かべたが、
後押しがない限りどちらも選べそうになかった。
そこにメールの着信が入った。母からのメールだった。
「恥をかかせるだけなら二度と帰ってこなくてかまいません」

おわり

母親のメールが後押しになっちゃって死ぬのかなーと想像させられて後味が悪かった
少年の世界では、イチョウを切らずに済んで家族の思い出を守れた人もいる、
という事が救いにならんかなと思いもしたが


719 名前:本当にあった怖い名無し :2011/08/29(月) 14:59:56.69
ボトルネックか

 

ボトルネック (新潮文庫)
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