ホーム » 小説 » 小説/か行 » こども(北杜夫)

857 名前:こども 1/4 :2011/09/03(土) 18:30:41.83
北杜夫の小説 『こども』
すみません、長くなってしまいました

ある中年の夫婦に男の子が誕生した。
高齢のため帝王切開での出産だったので消耗の激しい妻は、
静かだがいやに深く、熱っぽく子供の誕生を喜んだ。狂喜ともいえるほどに
男は戸惑いながらも小さくしわくちゃな体に秘められた命に感銘を受け、
小さな指が自分の指を掴むと何ともいえぬほどの感動を感じた。
「私の子よ、そしてあなたの子」
妙に芝居がかって聞こえる妻の言葉にうなずきながら不自然に笑った。

産後体調が戻らぬ妻に代わり男がもっぱら赤ん坊の面倒を見た。
真夜中でも空腹で泣く子をあやしミルクを作って与えた、
しわくちゃだった赤ん坊は可愛らしくなっておりそして「輝彦」と名付けられていた。
無心でミルクを飲む輝彦を見ていると言いようのない情感がこみ上げる
柔かな頬を撫でながら男は呟く「妻にも、自分にも似ていない」
ある日の男が寝返りを始めた赤ん坊の相手をしていると、妻はその光景に喜びやはり芝居口調で言った
「ねぇ私の言ったとおりでしょ、すべてがうまくいくのよ、テルちゃんのおかげよ」

数か月後、妻があっさりと死んだ。末期がんだったのだ
途方にくれる男の所に早くに夫と死に別れ独り身の妹が一緒に住んで世話をしてくれることになった
男は棺の中の妻を見る。結婚当初しか愛せなかった女。
そして赤ん坊を見た。夫婦のどちらにも似ていない整った鼻、薄い唇、それゆえ小賢しく怜悧に見えた。
罠にはめられた気分だった。子供は真に妻の子だった、だから夫婦の子だ。
しかし妻が消えた今この子は自分とは関係が無い。いったいこいつは何者なのだろう。
だが男は自分のその思いを打ち払い、子供を立派に育て上げようと決意する。


858 名前:こども 2/4 :2011/09/03(土) 18:31:34.37
時が流れ子供は2歳になっていた。
母代りの妹の話ではとても賢い子だが他の子供の顔を引っかいて乱暴するという
そして男はちょっと無関心に見える、もっと子供の相手をして欲しいと忠告する。
男はイラストレーターの仕事をしていた。
いつも家にいて子供のためにも良いと思ったが、わざとたくさんの仕事を抱え無意識に逃げていたのかもしれない。
輝彦は幼稚園に通うようになるとますます知恵をつけたのか酷い行いをしたかと思うと
一転幼げなしぐさと言葉で大人を煙に巻くようになる、利発で賢いというより乱暴でずる賢い子供になった。
男は途方に暮れ、この子がもし妻が浮気をして作った子だったら、
相手がはっきりしている分心置きなく憎むことも出来ただろうと夢想する。

さらに時が流れ輝彦は小学生になっていた。
成績は非常に優秀だったが、友達に輪に入れずすきあらば他の生徒に危害を加える問題児だった。
男は酒の量が増え肝臓を患い、妹は心労で老け込んでいた。
妹は男に子供が悪さをしたら殴って本気で叱れ、何故いつも遠慮しているのだと責めた。
最近学校をずる休みする輝彦だったが、近所に住む若い東大出の会社員と仲良くなり懐いていた。
男がその青年に訳を話すと、輝彦を説得してくれたようでしばし問題行動はなくなった。
複雑な心境ながら安堵したのもつかの間、青年が結婚することになり引っ越しが決まると
輝彦は狂ったように激昂し暴れ、以前よりも問題行動が酷くなった。
女児の下着を剥ごうとしたり、万引きを繰り返し少しも反省の様子を見せない
担任からはある種の自閉症ではないかと言われ暗に転校を提案された。
妹との喧嘩も増え男の仕事も激減していた。
八方塞がりの中男は呻く
「あいつは・・俺の子なんかじゃない、あいつはいったい誰の子供なのだ?」


859 名前:こども 3/4 :2011/09/03(土) 18:32:42.34
妻との関係がうまくいかなくなったのがきっかけだった、妻は異常なほど子供を欲しがり何年も治療を続けた。
ついに男が病院に呼ばれ検査を受けると無精子症と判明した。
それでも妻は子供をあきらめなかった、子供さえ生まれれば夫婦仲も取り戻せ、
すべてが幸せになると病的に信じていたのだ。
そして妻はある提案をし、男はそれをしぶしぶ了承した。
何回目かでやっと妊娠した妻の喜びもつかの間、あっさり死んだのがこの計画された芝居を頓挫させたのだ。
妻さえ生きていれば・・いやあの生まれ持った小悪魔のような性質は尋常ではない、いやそれでも・・
男は妻が出産した大学病院へ赴き、当時の担当の医者に面会し、子供の行動について打ち明け
そのルーツとなる男親を知りたいと願った、しかし医者はどうしても教えられないし判らないようになっている
そして人工受精児だから異端な性格になったということは決してない、勘違いしないようにと言われ帰された。
何とかして子供の男親の正体を知りたい、それを知ることができたならこの救いようのないモヤモヤとした
靄の中から抜け出せるに違いない
「正体がつかめないもの、それはおばけだ・・・」

3年生になるのに合わせ私立の学校に転校させた。
意外なことに輝彦は休まず登校し続け、活発さを取り戻したが男も妹も不安でならなかった。
私立の学校は裕福で上品な子供が多かったが、勉強もせず遊びほうける悪童もかなりいて、輝彦はそちらについた。
仲間から覚えた野卑で下品な言葉を使うようになり、徒党を組んで集団強盗の真似事もしでかした。
気丈だった妹も心労と更年期が重なり倒れた。
男はもう無理をして苦言を言うことも話し相手になることもおっくうになった。心はもう子供から離れていた、
かつてのような不気味さも憎しみも薄れた。つまり無理やりな情愛も消えたということだ、
残っているのは義務と責任しかない。


860 名前:こども 4/4 :2011/09/03(土) 18:34:15.04
ある日学校から連絡があり輝彦がまた何事かを起こしようだ。
どうやら女児に悪さをしたらしい、あわてて駆け付けると事は重大で、
小さな女の子を校舎の裏に引きずり込んで押し倒し局部に棒を突き刺し酷く出血したという。
学校の医務室では処置できず救急車を呼ぶ騒ぎとなった。
しかも今度は輝彦一人の犯行で、学校から行方をくらませたという。
男は放心しながら病院へ見舞に行く前に家に現金を取りにいかねばと、帰宅すると輝彦が男の隠し金をあさっていた
静かに問い詰めると「高とびしようとしたの」とおびえたようにかつてのように幼げな可憐な声を出した。
自分でもおかしくなるほど芝居じみたように「お前、一つくらいこの父に孝行しておくれ」と言うと
輝彦は態度を一変させ言い放った。
「パパはぼくを全然愛していないじゃないか!そんな親なんて!」
いつもの悪態なのか、すべてお見通しなのか解らなかったがその言葉は男の体も感情もすべてを凍りつかせた。

男は乾いた声で言った。
「輝彦、お前はこのお父さんの子ではない・・他にちゃんと父親がいる、
 だがお前が大人になるまでおじさんが育ててあげる」
子供はあっけにとられた顔でたじろいだ、邪悪なものが顔から消え年相応の少年がそこにいた。
しばらく無言で見つめあっていたが、誰かの足音が聞こえた途端表情が一変した。
狡猾で残忍で人を人とも思わぬ嘲笑
「そんなこと言って、うまく騙そうったって!」
怪鳥のような声でケ、ケ、ケ、ケ、と笑いながら
小悪魔の化身のようにすばしっこく飛び出していきいずこかへ走り去っていった。


862 名前:本当にあった怖い名無し :2011/09/03(土) 19:27:58.79
>>860
現実味があってなかなか後味悪いな、乙。最後の足音は誰のもの?

866 名前:本当にあった怖い名無し :2011/09/03(土) 22:33:30.12
>>862
床にふしてた妹が騒ぎを聞きつけてきた足音です。
書き忘れすみません

 

黄いろい船 (新潮文庫)
黄いろい船 (新潮文庫)


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...