私たちがやったこと(レベッカ・ブラウン)

879 名前:本当にあった怖い名無し :2012/01/12(木) 00:26:10.67
うろ覚えで書く。
レベッカ・ブラウンの短編『お馬鹿さんなふたり/私たちがやったこと』

安全のために、私たちはあなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに合意した。
こうすれば私たちはいつも一緒にいるはずだ。

私は画家・あなたはピアニスト
お互いに絶対に必要な相手となるために、私たちは入念に準備を重ねた。

不自由なカップルには見えないように、
私たちは相手がなる予定の障害者とのコミュニケーション法の書籍を借りて読み込んだ。

私たちはある午後向かい合った。私は焼けたスプーンを手に、あなたは焼けた針を手に。

それからしばらくは天国のようだった。あなたはサングラスをかけて過ごした。

練習を重ねていたので、ほぼ日常生活を送れた。
あなたの足元が多少ふらついてインテリアにぶつかってしまうのは
『周りが見えない天才』と取巻きはみなしてくれたし、
私が周囲の物音に気づかないのも『集中力がある、天然だが才能がある人』と思ってくれた。

一緒に絵画展に出かけた。あなたが大好きだった画家だ。
独自に編み出した連絡法で、あなたの太ももを叩いてメッセージを送り、絵の説明を行う。
画家は新しい試みを行っていた。嬉しくてあなたにメッセージを送る。何度も何度も。
でもあなたは理解してくれていない。いらついたメッセージが戻ってくる。

あなたはピアノのソロコンサートを開催する。リハーサルに何度も付き合う。
目の見えないあなたが何かにぶつかってはいけない。
本番は大成功。私は音は聞こえないが、周囲の雰囲気でわかる。私も大喝采を送る。

その夜-
あなた「コンサート好評だったんだ」
私「分かってる。素晴らしかったよ」
あなた「でも聞こえなかったんでしょ」
私「でもわかるよ」


880 名前:本当にあった怖い名無し :2012/01/12(木) 00:30:56.50
あなたによると、私の声と発音は段々変わってきているらしい。もう単語がはっきりしていない。
だから私からの喝采に気づいたと。

電話がかかってきたらしい。あなたが出る。もちろんあなたのコンサートへの賛辞だ。
-あなたは目が見えないから、自分の表情がどのように変化するか分からないのだ。
もう私には見せなくなった表情。

私たちの関係はこんな感じにおかしくなってしまった。もう夜の生活もない。

ある夜。私は描きかけの絵画を仕上げようとカンバスに向かっていた。
あなたの様子を見にいったら、あなたはベッドで手首を切っていた。

―知らなかった。人の中にはこんなに血液があるんだ。
―知らなかった。こんな「音」がするんだ。

私は救急に電話して、叫んだ。私の声はもう言葉になっていないらしいけれど。

「すみません。同居人が手首を切ったのです」
「すみません。助けてください」

私は説明できない。
どうして私たちがあんなことをしたのか。
=====

この小説は、伏せられているけれど同性カップルの設定らしい。
(作者はレスビアン)

原題は"FOLIE A DEUX"『二人組精神病』

 

私たちがやったこと (新潮文庫)
私たちがやったこと (新潮文庫)