狂犬(石ノ森章太郎)

565 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/07/02(土) 12:39:11
石森の名前出したら懐かしくなったので、大昔の初期の作品から。

「狂犬」

山あいの小さな町。
勉強嫌いのわんぱく少年・五郎は、野良犬をいじめたり不良とケンカしたりして
平和な(?)毎日を送っていた。ある日、火の見櫓に不良を追いつめた五郎は、
あやまって転落。頭を打つが命に別状はなし。ガールフレンドのお澄[おすみ]に送られて
帰宅する。お澄は心配するが、つめたくあしらう五郎。
同情はまっぴらだ。
その様子を、いつもいじめている野良犬がじっと見ていた。
家には、病気の母と信心深い父。そこに、村の祈祷師が来てお祈りをしていた。
盲目の老女である。老女は、寝ている母に水をかけろという。
驚いて反対した五郎は、父と老女に追い出されてしまった。
うら山に登り、何もできない自分に腹を立てる五郎。
その夕方。どこからともなく飛んできた火の玉が五郎の家を焼き、母が焼死する。
外にいた五郎と父は無事。祈祷師は、五郎のせいでバチがあたったと言いふらす。
死体のそばにあの犬が寄ってくるが追い払われる。火の玉の話を聞いて、不安になる五郎。
その夜、父と五郎は、となりに住むお澄の家にやっかいになることに。
五郎はお澄に、自分がうら山で、あんな父母のいる家は燃えちまえ、と考えていた事を
うち明ける。五郎は、学校の先生の家に意見を聞きにいってみることにする。
担任の木暮は、若く知的な男性教師で体格も良く、たよりになるタイプだ。
だが、木暮の家に向かう五郎とお澄をさえぎる様に、木が倒れてくる。
木暮にわけを話すと、五郎がエスパーでもない限り、と笑い飛ばされる。
木暮の意見では、火の玉は空中の電気がチリに火をつけたもの、倒れた木は
虫が食っていただけ。竜巻や、かまいたちの可能性も語られる。


566 名前:つづき 投稿日:2005/07/02(土) 12:41:15
しかしその帰り道。落ち着きを取り戻したふたりを牽制するように、
ふたりの周りに墓石がどかどか飛んで来た。またお澄の家では、
親切だったお澄の両親が人が変わったように乱暴になり、五郎の父を追い出していた。
意見を言ったお澄までもがひっぱたかれ、追い出される。
外に逃げると、今度は五郎の父の目つきが変わり、殴りかかってきた。
それだけではない。良く知っている近所の人たちが、皆、人が変わってしまっていた。
もう一度、木暮宅に逃げるふたりを、あの野良犬が追ってくる…。
木暮が下宿していた寺の和尚も様子が変だった。
木暮は、「盗まれた町」というSF小説の話をする。宇宙人が、町をひとつ乗っ取る話だ。
その宇宙人はエンドウマメのさやのようなものに乗ってきて、その中で、
それぞれ特定の地球人そっくりに化ける。しかし見かけはそっくりでも、
性格はまるっきり変わってしまうと言う。まさかこの小説のような事が?
その夜。五郎たちの枕元で寝ていた寺の猫が、粉のようになってくずれた。
障子の外からはガサガサと音が。五郎が障子を開けると、まさに、
エンドウマメのさや状の物体から、寺の猫とそっくりな猫が生まれようとしていた。
見ると、お澄と木暮が石のように冷たくなっている。とり変わられている最中なのだ。
五郎は必死であたりを探し、縁の下で巨大なさやをふたつ見つける。
ツルハシでさやをずたずたにする五郎。なんとか、ふたりは無事のままですんだ。
その時、五郎たちは膨大な数の鳥たちにあたりを囲まれている事に気づく。
木暮は、「鳥」という映画に同じ場面があると言う。その映画は五郎も見ていた。
よくわからないまま、町を脱出しようとする3人。
だが鳥に襲われ人々に襲われ、巨石に襲われ橋も落ちていて失敗。川の堤防もくずれる。
電話線もずたずた。ついに、この不気味な敵と戦うことを決意する五郎たち。

567 名前:つづき 投稿日:2005/07/02(土) 12:47:33
無人の車などに襲われ、五郎たちは命を狙われている、と確信する。
町には、天罰だと喜んで狂ったように歩く祈祷師の老女だけがいた。
事件の影に「憎悪」を感じた木暮は、もう一度エスパーの可能性について考える。
町を、人々を憎んでいる者。そして超能力者には、
本来の感覚器官が欠けていることが多い……。全てはあの老女の仕業か。
猟銃を構えた木暮は老女を狙うが、良心がジャマをして殺せない。その内に、
老女も鳥に襲われて死んでしまった。老女が犯人ではなかった!? 混乱する3人。
その時、鳥たちに合図を送っているものに気づく。あの、野良犬であった。
全てに思い当たる3人。火の玉の時も、ゆうべの寺の外にも、あいつはいた。
「盗まれた町」や「鳥」のことを、木暮たちの心を読んで知り、模倣したのだ!
犬を追いつつ、五郎は疑問に思う。あの野良犬はずっといたのに、なぜ急にこんな事に。
そうだ、2日ほど前からだ。一体なぜ? 2日前に何があったろう。
町が閉ざされたため、外からヘリが救助に来たが、それも落とされる。
とうとう3人は、犬を追いつめ、対峙した。そこは、あのうら山であった。
犬は人の言葉をしゃべった。木暮を襲う犬に、猟銃を向ける五郎。その五郎に犬は言った。
お前に、自分自身は殺せないと。

568 名前:つづき 投稿日:2005/07/02(土) 12:50:41
良くわからず、信じない五郎。犬は、五郎自身の心だという。
しかし五郎には、ちゃんと今でも心はある。少なくとも、五郎はそう思った。
だが木暮は気づいた。人には、常に2つの心がある。良心と悪心である。
2日前。それは、五郎が火の見櫓から落ちた日だった。
五郎はその時、頭を強く打った。その時、何かの力が脳に作用し、
悪い心だけが飛び出して、近くにいた野良犬の中に入ってしまった。
そこには、良心というクサリは無かった。
自由になった「心」は野良犬の中で奔放に成長し、超能力を持つまでになったのだ。
そしてクサリをとかれた狂犬のように、憎しみをまき散らして噛みついている…
五郎は、自分からじりじりと遠ざかる木暮とお澄に気づいた。化け物を見る目だ。
涙を流しながら、必死に否定する五郎。五郎は野良犬を撃ち殺すが、「心」はもう
器を必要とはしていなかった。犬の身体を抜け、五郎の身体に戻ってくる「心」。
五郎は猟銃を木暮に投げ、自分を殺すよう叫ぶ。
だがその目の前で、木暮の姿はかき消えた。「心」が、別世界に飛ばしてしまったのだ。
お澄は泣きながら、五郎を哀れんだ-そのお澄も消えた。
同情はまっぴらだ。
ばかやろう! ばかやろう! 泣き叫び続ける五郎。
町にはもう、誰もいなかった。
誰も助けにこない。
誰も話しかけない。
それはかつて五郎が夢みた、自分ひとりで好きに生きられる町の姿だった。
    END

何て事ない少年時代を過ごせたはずなのに…てのも気の毒だけど、
どーすんだ、この後!? てのが何も示唆されてなくて読後感が重い。
最後は大ゴマで、不安な余韻ばかりがあって後味悪い。
イヤこの時代の石森は、大好きなんだけどね。


574 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/07/02(土) 15:13:22
>>568
なかなか面白かったが、心が良い悪いの二元論になって萎えた。

577 名前:565 投稿日:2005/07/02(土) 17:28:05
>>574
まあ当時の読者に解りやすくしたんだと思うんで勘弁してやって。
普段押さえられてる心の一部、とでも解釈してくだされ。

 

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