ゴールデンケージ(井上夢人)

485 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/01(木) 01:59:06
なんかわりと有名な作家の短編だった気がするんだが、作者名思い出せない。
8年前くらいに読んだ短編小説。タイトルは「ゴールデンケージ」。

どこから見ても不良な弟と、どこから見ても優等生な兄。
金持ちエリート主義の両親はもちろん「優等生」な兄だけに期待と愛情(という名の金)を注ぎ込む。
弟はたしかに不良たちとつるみチンピラまがいの暮らしをしているが、実は精神的にはさほどDQNではない。
ただ、兄のような優秀な学業能力のない自分が、両親から愛されないことに諦観と共に納得していたのだった。
兄と弟は同じ家に住んでいながら他人のように生活し続け、やがて兄の大学受験の時期を迎える。
その頃兄は、自分の体に奇妙な寄生虫が寄生してしまったことに、密かに悩んでいた。
皮膚のすぐ下を蠢くその虫を、皮膚をカッターで切りつけて採取し、
学校の生物教師に見せて正体を突き止めようと試みるも、
捕まえたと思っていた虫は逃げてしまっており、遂にその正体は突き止められない。
やがて兄の体の中で寄生虫たちは異常な速度で増殖し、血管という血管の中を蠢きはじめる。
兄は部屋に籠り、必死でカッターで皮膚を裂いては虫を取り出す作業を繰り返すが、
虫たちの増殖能力にはとても追いつかない。
なまじ優秀な頭脳を持った兄は、これまでの状況から虫の増殖速度を割り出して、
あと何日で自分の体の中に何万匹の虫が生まれるか、なんてことを性格に計算してしまう。


486 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/01(木) 02:01:02
絶望的な状況の中でカッターを振るい、自分の皮膚を傷つけて虫を一匹ずつ退治し続ける兄。
その頃弟は、こもりきりの兄の部屋から低い呻き声が漏れることに気付いていた。
あの優等生な兄が受験のストレスの中で我慢できなくなり、オナニーに耽っているのだと思い、
常に自分の劣等感の根源だった兄のそんな切羽詰った姿を見て見たいと思いついて
ベランダから兄の部屋を覘いて見る気になった弟。
弟はそこで、カッターで自分の皮膚を切り裂いては不可解な行動と悲鳴を繰り返す兄の異様な姿を目撃する。
弟には「虫」の姿は見えず、兄が無闇に自分の体に切りつけているようにしか見えない。
思わず兄の部屋に突入し、兄の手からカッターを取り上げる弟。
兄と弟は激しい揉みあいになり、騒ぎを聞きつけて兄の部屋に駆けつける両親。
格闘中に兄の口から漏れたうわごとから、おぼろげに事の真相を察する弟…
…兄は両親からのプレっシャーにより、自分でも知らぬうちに徐々に精神を崩壊させていたのだった。
兄の部屋に飛び込んできた両親には、問題児の弟が兄をカッターで切りつけたようにしか見えない。
救急車だ警察だなんだと騒ぎ始める両親。
すでにすっかり壊れてしまっている兄。
ああ、この騒ぎは全て自分のせいになってしまうんだな、と静かに諦める弟…

誰も幸せにならないし、実は何も悪くない弟が駆けつけたパトカーに逮捕されちゃうぽいラストに
なんともいえないどんよりした気分になった。


488 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/01(木) 03:34:07
自分も読んだ。井上夢人。
弟カワイソスで後味悪かった。弟は結構兄が好きだったのに
両親が最悪なんだよね

489 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/01(木) 03:41:03
静かに諦める、ってのが泣ける。
でもアニキはずっと虫のこと言い続けるだろうし、
ちゃんと調べてもらえばきっと大丈夫だよ、弟…と信じたい。

508 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/12/01(木) 20:42:39
井上夢人の虫の話凄く印象深かったので覚えてる。
確かカッターで切った傷にセロテープを当てて、虫や虫の卵を貼り付けて取るんだよね。
それが妙にリアルだった。兄の眼にはテープにびっしり虫や卵がひっついて見えてただろう。
実際には血のついただけのテープが何枚も捨てられてたってのも、想像して薄気味悪かった。
兄がセレブのパーティ参加してエリートや金持ちの中に混ざって、そのうちの一人のお嬢様と知り合って
親の敷いたレールから外れよう、みたいに共感しあうのに結局親に服従するしかなくて
お嬢様から失望される、みたいな場面もあったような気がする。

 

あくむ (集英社文庫)
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