湖畔にて(倉阪鬼一郎)

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倉阪鬼一郎の「湖畔にて」が後味悪い

哲学にのめりこみ真理を追究するあまりに精神を病んだ彰彦は
田舎の湖畔に療養のため引っ越す
精神を病んだことともともとの性格から人付き合いを避けていたが、
静かな湖畔で暮らし黒猫を拾い育てるうちに精神も回復していく

ところがある日村人が作務衣をきて黒猫と話す彰彦を見て、
黒猫をご神体として祭っていた黒猫教の信者かと疑う
黒猫教の教祖が信者の娘を黒猫の着ぐるみに入れて窒息死させ
屍姦する事件を繰り返していたため、村人は都会者で経歴のわからない彰彦を警戒する
また、彰彦の家は以前憑き物筋とされる家族の家だったのも彰彦が不審者扱いされる一因だった

彰彦の家の近くの湖にはたまに口の利けない少女が散歩に来るが、
2人並んで湖を眺めるうちに親しくなる
しかし彰彦を警戒する村人たちは「黒猫、少女」という2点で
彰彦を黒猫教の信者との疑いを強め調べようとする

自宅に回覧板が届いたことで「村の一員と認められた」と喜ぶ彰彦だが
その中に「黒猫教に賛成か反対か」というアンケートを見つけ
黒猫教を感情的に否定するコメントで埋め尽くされているのにうんざりし
「異分子を否定するのはありがちだが徹底して異分子を拒絶する共同体は腐敗する。
 この村に未来はあるか」と書いてしまう

彰彦は哲学に没頭していたため俗世のことや人間関係に疎いのだが、
このことで彼は黒猫教信者と決め付けられてしまう

彰彦には悩み事があると自分あてに手紙を書き、
客観的に手紙を読んで解決法を考える習慣があり
「自分たちの利益や和を保つために異分子を排除しようとする動きは仕方ないこと
 共同体に埋もれるのではなく距離を保ちながら暮らしていけば、この村が安住の地になるだろう」
と言う手紙を自分あてに投函する

彰彦を危険人物と決め付ける村人たちは投函された手紙を勝手に読み
「この村が安住の地、というのは黒猫教のアジトを作ろうということだ」
と解釈し彰彦を排除しようといきり立つ

それから彰彦の家に黒猫教反対のビラを投函したり立て看板を設置するが
彼自身は自分が黒猫教信者と勘違いされているのに気づかない
それどころか、湖にやってくる少女が悲しげであるため
彼女の家族が黒猫教信者で、彼女と親しい自分も迫害されていると誤解する


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彼女が悲しげなのは父親に性的虐待を受けていることと、
口が利けないため差別されているからだが、
それを知らない彰彦は彼女を支えてやりたいと決心する

いつものように湖畔で黒猫と戯れながら少女に話しかけていると
村人たちがやってきて、立ち退きを迫られる

抗議する彰彦だが、黒猫が村人を威嚇したとたん
彰彦の家から巨大な銀色のナメクジがでてきて村人に迫る
恐怖に駆られた村人たちは暴徒と化し黒猫を殴り殺し
互いにかばいあう少女と彰彦を湖に突き落として逃げていく
逃げ去る村人を尻目に黒猫の死骸と彰彦と少女を絡め取りながら銀のナメクジは湖に沈む

銀のナメクジは、彰彦の家の前の憑き物筋と呼ばれていた家族に由来するものだけど
出番はこれだけ
空気の読めない上にコミュニケーション能力に欠ける男の自業自得といわれればそうだけど
精神を病んだ彰彦が、差別される少女や黒猫と不器用ながらも穏やかに誠実に接するうちに
少しずつ心が回復していく過程がほのぼのした描写で書かれていたからこの結末は後味悪かった

 

不可解な事件 (幻冬舎文庫)
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