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156 名前:1 :2010/10/15(金) 11:14:23
もいっちょ。がらりと変えて車谷長吉の短編。

『忌中』
主人公とその妻は、地方銀行で知り合った。
漢字の書き取りが苦手な妻が、主人公に『憂鬱』の字の書き方を尋ねたのがきっかけだ。
やがて結婚した二人は、子は無いながらも幸せな歳月を送るが、老齢に差し掛かった頃に
妻が脳障害を煩い半身不随となる。その他複数の神経症も併発した彼女は寝たきりとなり、
主人公が付きっ切りでその介護にあたるようになった。
日夜続く苦痛。下の世話も夫任せの生活に、妻は「死にたい」と何度も口にする。
枕元では、よれた筆跡で「憂鬱」の文字が書かれた紙がひらひらと風に揺れた。

そしてとうとうある夜、主人公は心中を決意する。
それを告げると、妻は「ながいあいだ、ありがとうございました」とメモで答えた。
そして、決行。主人公は妻を扼殺したのち、首を吊ろうと台に上る。
だが、飛び降りる直前で隣家から響いた赤子の泣き声に驚き、ふと動きを止めてしまった。
結果、主人公は死に損なってしまう。なぜか死ぬ勇気が無くなってしまったのだ。
目的を失った主人公は、妻の死体を着物箱に収めて押し入れに仕舞った。
そして、単純な欲求に流されるだけの生活を始める。
昼はパチンコや趣味の将棋。夜は妻の死体を眺める。死臭が漂っても、あえてそれを深く吸う。
そのうちに思いついたのが、自分を死に追い込む方法だった。
彼は銀行の預金を全て降ろし、散財を始めた。
金が無くなれば生きては行けない。そうなれば自殺を躊躇うこともなくなると考えたのだ。
とはいえ手元には結構な額がある。
金の使い道に困った彼は、按摩屋で出会った女につぎ込んでしまおうと考えた。
はじめは父と娘のような付き合いだったが、情にほだされたのか女も主人公を求め始める。
だがそのすぐのち、女が高価なコートを冗談で欲しがったことで、関係は終わりを迎えた。
主人公は何百万もするそのコートを本当に買い、女に贈ったのだ。
コートを買うために、有り金のみならず、街金でかなりの額の借金をした。
近いうちに借金取りが家に押し寄せ、返済を迫るだろう。
そして家には妻の死体がある。あの死臭はもはや隠し通せるものでもない。
主人公は玄関に「忌中」と札を貼ってから、一人静かに首を吊ったのだった。


160 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/15(金) 13:44:29
銀行で赤の他人に「憂鬱」の書き方を訊くって
どういう状況やねん

161 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/15(金) 14:58:26
>>160
書き方悪かった…。二人は地方銀行で勤務してたのです。つまり職場の同僚。
ただ、同僚とはいえ仕事面での関わりはなくて殆ど接点もなかったのだけど、
何かの折に漢字の書き方を妻の方が聞いてきて──って流れだったはず。

まあ、親しくない同僚に漢字の書き方聞くってのも十分違和感あるけど…。

 

忌中 (文春文庫)
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