キューティ(グレッグ・イーガン)

495 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/27(水) 13:52:01
鬱になったので気を紛らわすためにフィクション話ネタを書いてみた。
明確な悲劇とかではないけれど、なんとなくもやもやする、というタイプの後味悪話。

『キューティ』
未来SF。何らかの理由により子を持てない親のために、
世界には「キューティ」という人工生命体が流通していた。
キューティは4年程度の寿命を持つベイビーだ。その目的は親の愛情の受け皿である。
そのため、見た目は人間と変わらない。ある程度は親がカスタマイズ出来る。

キューティは購買者の子宮を介して誕生する。
男性の場合は人工子宮を取り付けそこに「種」を植え付ける。
産みの苦しみを経ることで、より一層の愛情を親に抱かせるためだ。
寿命が4年と定められているのは、4年経てば賢しく、小憎らしくなって
愛情の受け皿たりえなくなるだろうという思想が働いているためだった。

主人公の男性は、子供嫌いな恋人に嫌気がさし、キューティを購入する。
わき腹の横に人工子宮を取り付け、「種」を植え、浮かれ心地でその誕生を待つ。
そして何の問題もなく誕生。自分好みに設計したので、無論理想的な愛らしさだ。
彼はそうしてキューティを溺愛する。なるべく長く共にいるために職を変えまでする。
彼の生活の全てはキューティを中心として回り、キューティこそが彼の全てとなった。
だが、キューティには4年の寿命がある。
誕生時点でDNAに埋め込まれたその時限爆弾は、4年の間少しずつ進行するものであり、
今更治せるたぐいのものではない。彼はひたすらに懊悩する。


496 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/27(水) 13:53:14
その時、キューティが初めて声を発した。「パパ!」
呆然とキューティを見つめた彼は一つの決心をする。
キューティがもし死んだら、その時は自分も後を追おうと。
そうして自分が本当にこの子を愛していたことを、愛玩動物として
見ていたわけではないということを自らに証明してみせようと。
キューティはその後もどんどんと言葉を覚えていった。
主人公の決意も変わらない。今は静かに二人で終焉を待っている。
ただ、主人公には一つだけ、問いがあった。
それは、「もしこの子が自分をパパと呼ばなかったら、やはり自分は
この子の死を軽く扱おうとしていたのではないか?」というものだった。

以上。世界の思想・主人公の思考のどちらも気持ち悪いし、最後の自問ももやもや。
人工ベイビーを愛玩動物扱いすることに抵抗は感じていたようだけれど、
それ以前の問題に思える。もやもや箇所が多すぎる話でした。

もーひとつ。

『僕になることを』
同じく未来SF。この世界では、人体にスペアの機構を予め用意しておくことが定着していた。
例えば心臓の横に代理心臓を据え付けておくことで、いざという時代替させるのだ。
そしてこの機構は脳に対しても用いられていた。
脳のスペアには特殊な鉱物が使われていたため、世間的には「宝石」と呼ばれている。
この「宝石」には「教師」と呼ばれる機構が付随していた。
「教師」は、メインの脳の生体信号を全て読み取り、「宝石」にも同じ動作をさせるのだ。
この時代の科学水準では、脳の仕組みや精神の拠り所といった命題に対して全てが
解明されていたわけではないが、動きを真似させる程度のことは出来たのだった。


497 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/27(水) 13:54:13
主人公は、幼い頃から「宝石」に対して疑念を抱いていた。
脳が損傷した時、肉体は「宝石」により命を永らえるだろう。
しかしそれは本当に「僕」なのだろうか?という疑念だ。
だが、この世界においては誰もが「宝石」に対して肯定的だった。
特に、20台後半では「スイッチ」(脳を捨て「宝石」に切り替えること)が奨励されている。
脳細胞はこの年齢以降は衰える一方だが、「宝石」は鉱物のため劣化しない。
よって、「スイッチ」することにより最盛期の知能を有し続けることが出来るのだ。
成長し、結婚した主人公であったが、その妻も「スイッチ」するという。それが原因で二人は離婚。
離婚後には「私は今でも昔のまま。貴方を愛するロボット妻より」という皮肉の手紙が届いた。

拠り所を失った主人公は、「スイッチ」に反対する団体を幾つか訪れる。
だがいずれも社会不適豪奢の集まりであり、テロの相談まで持ちかけられて主人公は逃げ出す。
日夜「自分自身」について悩み通す主人公。疲弊するうちに、何が問題だかもわからなくなる。
そして、この先60年の人生を不安のまま過ごすよりはと、とうとう「スイッチ」手術を申請する。

だが、そのすぐ後に突然、主人公は自分の体が動かせなくなる。
正確には、思っているものとは全く違う行動を取ってしまうのだ。
更には、ふと知り合った女性と親しくなり、愛の言葉まで囁いてしまう。
自分はこの人のことをまったく愛してなどいないというのに。

そして彼は真実に気付く。「宝石」を忌避する自分こそが「宝石」だったのだと。
この現象は、「教師」が何らかの理由で損傷したことで、メインの脳を
トレースすることが出来なくなっているために起きているのだと。

そうした真実・不安、それら全てを内包したまま、手術は行われてしまう。
後には「宝石」である自分だけ。彼=メインの脳は全て除去されてしまった。
そしてラスト、彼の、困惑とも達観ともつかない、次のような趣旨の独白で幕を閉じる。
「これで良かったのか、彼が最後に何を思っていたか、僕には何もわからない」

以上。こっちももやもや。


512 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/28(木) 07:13:39
>>497
の主人公が自分だと思ってた人格(宝石手術をしたくなかった人格)は実はサブ(宝石)の方の脳だったって事?
で、後に宝石のメイン脳トレース機能がが故障して、好きでもない女に告ったりしだした自分じゃない人格が
実はメイン(本来の自分の脳)だったって事かな?
つまり手術後に残った人格は宝石(宝石手術をしたくなかった人格=この話の最初で主人公とされてる人格)でいいのかな?

518 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/28(木) 10:23:24
書いた本人じゃないけども。

>>512
その認識でOK。作者はグレッグ・イーガンだね。
ややこしいのは、トレース機能が壊れるまでの思考は、
メイン脳が考えたことだということ。
宝石はそれをトレース「させられていた」に過ぎない。

トレース機能が壊れるまでの思考=メイン脳
トレース機能が壊れた後の思考=サブ脳(宝石)
ってことを理解して読み返すと面白い話。

 

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)
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