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630多分1/3:2013/03/22(金) 01:10:24.10
森村誠一「肉食の食客」

父は、おじを憎んでいた。普通の兄弟ではない。
厳格で教養深い祖母と違って、無教養で不器量な使用人の女と祖父が通じて生まれた子だ。
地元の名家に相応しく、規律正しく優秀な父の兄弟たち。
そのなかで異質に、おじは三流大学を出た後、職にも就かない。
だらだらと、いつまでも実家に居候、一日中蟻の観察をして過ごしていた。
「蟻の巣にはね、アブラムシとか蟻以外の虫が居候してることがあるんだよ」
まるで我が家のおじみたいだ。
「大抵の居候は、甘い汁を出して、蟻に報酬を払って共存してるんだけどね」
「だけど、カイガラ蝶というのが居てね。はじめは普通に共存してるんだけど、
 蟻が安心して巣に入れた途端、幼虫や蛹を食いつくしちゃうんだよ」
そう言って、おじは薄く笑った。


631多分2/3:2013/03/22(金) 01:24:11.74
それからすぐに、おじと母が駆け落ちした。
まだ私は七歳だった。
おじと母を憎んだまま、私は実家を出て、
父がくれた土地に家を構え、平凡だが幸せな家庭を築いた。

あれから二十年以上経っただろうか、どこから聞いたのか、おじが我が家に現れた。
勿論、居候などさせる気はなったが
「彼女との関係は、お前が生まれた前からあったんだぞ」
まさか・・・。
確信はない。
しかし、私はおじを家で養うことにした。

それから、おじは大人しく居候している。
ただ、家のなかに、やたら蟻が侵入してくるようになったことが、
何か不気味なものではあった。
妻は、昔の経緯にこそ驚いたものの、
還暦前後の老人がどうこうするとも思わず、無警戒なものだ。
しかし、おじの妻に向ける視線には、好色な色があるように感じて仕方なかった。


632 ラスト3/3:2013/03/22(金) 01:44:41.07
そんなある日、海外への長期出張が決まった。
不安定な国なので、単身赴任をせざるをえない。
しかし、その間に妻は?
おじが出ていってくれる筈もない・・
私は決心した。
おじは、いとも簡単に死んでくれた。
後は、この四畳半の下に死体を埋めて、ここは物置にでもしてしまおう。
この田舎のことだ、私が住み続ければまず発覚はしない。

娯楽もない海外、月に何回かの妻の手紙だけが唯一の支えだ。
まるで若いカップルのような愛の言葉。
しかし、今回の手紙には、その続きがあった。
「最近蟻が多いので、業者に調査してもらったの。そうしたら、どうも白蟻の巣があるらしくて。
 丁度おじさんが住んでた、あの四畳半。あそこみたい。今度また業者を呼んで、
 徹底的に駆除してもらうことにしたわ。大丈夫、あなたが帰るときには、
 ちゃんと綺麗なお家になってるからね。愛しているわ」

 

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