ホーム » 小説 » 小説/か行 » 靴が鳴る(阿刀田高)

401/3:2014/02/25(火) 13:25:07.38
阿刀田高「靴が鳴る」

侑子は時々、シュッシュッという細い管から空気が抜けるような、
老人の息づかいのような幻聴を聞く。
近道だからと人通りの少ない裏道を選んだ今も聞こえた。
ストーカーかと恐れたが、振り向いても誰もいない。

最初に聞いたのは中学生の時だったかしら、と思う。
遺伝ではないかと姉に訊いてみたが、
姉は幻聴なんかないと言い、さらに言葉を続けた。

最近ウォーキングがはやってるけど、
ブランド物のスポーツ靴で底に空気が入っていて弾ませるんだか
疲れを軽減するんだかっていうのがあるでしょ。
こないだ歩道橋を歩いていたら、私しかいないはずなのにシュッシュッて聞こえたの。


412/3:2014/02/25(火) 13:27:25.67
それが、下の歩道でウォーキングしてる人の歩調とぴったりなの。
あなたが聞いたのもきっとそれよ。

そういえば、と姉は母の古い写真を見せた。
母は数年前に病死し、父は定年で悠々自適。
父が読書好きの姉に送ってくれた蔵書にはさまっていたそうだ。
母さんはやっぱり綺麗な人よね、あなたは母さんに似たのね、と姉が言う。

写真の裏に、アルバムから剥がしたらしい跡がある。
当時父は単身赴任中で、写真の趣味もなかった。
これはきっと、父方祖父が撮ったのだろう。

お祖父ちゃんは母さんに気があったのよ、
この年になってわかったわ、と姉が言った。


42 3/3:2014/02/25(火) 13:30:16.52
父が単身赴任で留守の家に、祖父はよく遊びに来た。
泊まっていく事も多かった。老人は母の寝姿を覗いていたのかもしれない。
7つ違いの姉は何を察していたのか。

シュッシュッという息づかいのような音を自覚したのは、確か中学生の時だった。
祖父は明らかに、姉より自分を可愛がってくれた。自分は母によく似ている。
一人暮らしのアパートに帰宅した侑子は、
あれが色情に狂った老人の鼻息だと結論づけた、
と言うよりもはっきりと思い出した。

 

風の組曲
風の組曲


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...