原始共産制(筒井康隆)

95本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:04:09.05
筒井康隆『心狸学・社怪学』に収録されている『原始共産制』。

昭和四十四年一月十九日。東京大学、安田講堂は落ちなかった。
二十日にも落ちなかった。次の日も、その次の日も落ちなかった。

政府は学生たちが講堂から出てこないので、ついに東大の封鎖を命じた。
赤門・正門をはじめ、東大のあらゆる門を固く閉じたうえ、
頑丈な板で釘づけし、有刺鉄線でぐるぐる巻きにした。
東大付近に住む者はいなくなり、次第に寂れていった。
本郷、池之端、湯島、弥生などにはほとんど住む者がいなくなってしまった。

そして百数十年の歳月が流れた。


96本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:12:47.61
ぼくは、きょう、まつおかのおじちゃんから、ほんを、もらいました。
なかに、なにもかいていない、まっしろな、ほんです。
まつおかの、おじちゃんは、これは、のおとというのだと、おしえてくれました。
だからぼくは、きょうから、この、のおとという、ほんに、
いろいろなことをかいてみようとおもいます。

ぼくたちのいる、ぶんがくぶらくでも、また、やすだこうどうの、むこうがわにある
りがくぶらくでも、このごろは、おとうさんの、いないこどもが、どんどん、ふえているそうです。
なぜでしょう。ぼくは、まつおかのおじちゃんに、たずねました。
まつおかの、おじちゃんは、こう、いいました。
「この、とうだいの、なかでは、すべてのものが、みんなのものだ。
 ひとりひとりの、ざいさんや、もちものは、もってはいけないのだ。
 だから、おとこが、ひとりのおんなを、ひとりじめにするのも、よくない。
 おとこは、どのおんなと、せくすを、してもいいんだよ」
せくすとは、なんでしょう。ぼくには、わかりませんでした。


97 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:26:12.19
でも、もしかしたら、このあいだ、おかあさんが、やすだこうどうの、うしろにある、
じしんけんきゅうじょで、りがくぶらくの、おじちゃんとしていた、あのことかもしれない。

あのとき、ぼくはびっくりしました。
ぼくたち、ぶんがくぶらくの、にんげんは、ひるま、さんしろういけで、
ふなの、ようしょくをしたり、いくとくえんで、やさいをつくったり、
しています。そのひ、さんしろういけに、いるときに、おかあさんが
いなくなりました。ぼくは、おかあさんを、さがして、じしんけんきゅうじょに、きてみました。
なかへ、はいってゆくと、おかあさんと、りがくぶらくの、やせた、おじちゃんが、
ゆかのうえで、ねころんだまま、すもうをしていました。
でも、ただのすもうでは、ないようでした。


98 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:30:47.73
やせた、おじちゃんは、あおいかおをして、ひいひいと、いっていました。
おかあさんは、まっかな、かおをして、はあはあといって、いました。
ぼくは、なにがなんだか、わからなくなり、
あたまのなかが、めちゃくちゃに、なったので、にげた。
あれは、じしんの、けんきゅうでは、ないとおもいます。
あれが、せくすというものなのかもしれない。

いちねんに、いちど、ぶんがくぶらくの、ひとと、りがくぶらくの、ひとは、
やすだこうどうの、とりあいを、することになっています。
かったほうは、こうどうの、おくじょうで、あかい、はたを、ふります。
まけたほうは、したから、ほーすで、みずをかけます。
いつから、こんなことをやりだしたのか、なぜ、こんなことを、するのか、
ぼくには、さっぱりわかりません。


99 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:38:36.36
ぼくには、わからないことが、まだまだ、あります。
ぼくたちの、すんでいる、この、とうだいという、くには、ちがいほうけんなのだと、
まつおかのおじちゃんが、おしえてくれました。
ちがいほうけんとは、いったい、なんなのでしょう。
どうやらそれは、ぼくたちの、とうだいという、くにが、
たかい、へいに、かこまれていることに、かんけいが、あるようです。

へいの、むこうには、なにがあるのだろう。
へいの、むこうには、なにがあるのだろう。
この、とうだいという、くには、へいに、とりかこまれていて、
だれひとり、へいのそとに、いったことが、ないのだそうです。
ああ。
へいの、むこうには、なにがあるのだろう。
へいの、むこうには、なにがあるのだろう。


100 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:46:42.34
へいの、そとに、なにがあるのか、だれにきいても、しらないという。
おかあさんに、きいても、かおを、あおくして、そんなこと、しらないほうが、いいという。
まつおかのおじちゃんに、きくと、へいのそとには、あくまがいるのだ、とおしえてくれた。

「どんな、あくまですか?」
「し本主ぎというあくまだ。だから、あのあかもんを、ひらいては、ならんのだ。
 あかもんを、ひらくと、たちまち、し本主ぎのあくまが、もんのなかへ、なだれてくるのだ」
「し本主ぎというのは、なんですか?」
「わしも、よくしらんのだ。わしのちちおやが、そういっていただけだからね。
 でも、おそろしいものであることには、ちがいないだろう」

ぼくたちは、し本主ぎでなくて、共さん主ぎなのだそうだ。
だから、おそろしく、ないのだという。


101 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 18:53:30.61
あるひ、しんぶんけんきゅう所にある、ぼくの、いえに、かえってくると、
おかあさんが、ちいさな、こえで、ついてこいと、ぼくにいった。
ぼくは、おかあさんに、ついていきながら、どこへいくのとたずねた。
「しゃつや、くつしたを、もらいにいくのよ」とおかあさんはいった。
「だれに、もらうの?」
「し本主ぎのひとが、そっと、もってきてくれるんだよ」

ぼくはびっくりした。
そういえば、ぼくたちの、きている、ふくは、いったいだれがつくっているのだろう。
すいどうからでてくる、みずだとか、でんきだとか、がすだとか、
どこからやってくるのか、ふしぎだった。


102 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:01:35.50
「じゃあ、みずや、でんきや、がすも、し本主ぎから、もらっていたのかい?」
「そうじゃないよ。みずや、がすは、ほとんどとめられているけど、
 し本主ぎがとめるのを、わすれたものもあって、それを、つかっているのさ」

あかもんの、そばで、おかあさんとふたり、し本主ぎのひとを、まっていると、
みなみのすみの、へいの下から、四十すぎぐらいの、げひんなおとこがでてきて、
おかあさんとなれなれしく、だきあった。それから、きすをした。
「これは、だれだい?」そのおとこは、ぼくをみて、おかあさんにたずねた。
「わたしの子どもよ」
「かわいそうになあ」おとこは、ぼくをながめながらいった。
「ふつうなら、もう大がくには、はいっている、歳なのに」


103 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:09:58.31
ぼくが、かえろうとすると、おとこはぼくに、赤いはこをくれた。
「これは、きゃらめるという、とてもおいしい、たべものだ」
し本主ぎのたべものなんか、ほしくないとおもったが、
せっかくくれたのだから、もらっておくことにした。
おかあさんより先に、いえへかえって、
ぼくは、そのきゃらめるという、たべものを、ひとつ、たべてみた。

びっくりした。

よのなかに、こんなおいしい、たべものが、あったのか。
ぼくは、あまりのおいしさに、なみだをぽろぽろと、こぼした。
なんて、あまいのだろう。ああ、ああ、これがし本主ぎの味なのだろうか。
こんなにおいしいし本主ぎが、どうして、あくまなのだろう。
ぼくは、そうおもって、わあわあなきながら、
きゃらめるを、むさぼるように、たべつづけた。


104 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:18:02.52
そのばんは、ぶんがくぶらくと、りがくぶらくのあいだで、ねんに一どの、
やすだこうどうの、そうだつせんの、おまつりが、あった。
ぼくも、はじめてこのおまつりに、さんかすることになった。
ことしは、ぶんがくぶらくが、かった。

ぼくは、うまれてはじめて、やすだこうどうの、いちばん、たかいおく上にのぼった。
ぼくは、うまれてはじめて、とうだいの、まわりを見まわした。
ああ、なんとすばらしいながめだろう。
森のむこうにそびえたつ、し本主ぎの、たてもの、
それは、とうだいの中のたてものよりも、
もっともっと大きく、もっともっと高く、もっともっと明るかった。


105 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:22:31.13
ぼくは、し本主ぎのほうをながめて、かたく、心にちかった。
ぼくは、いつか、きっとあそこへいくのだ。
なんとかして、このとうだいから、にげだして、し本主ぎのところへいこう。
あんなうつくしい、はなやかなものが、あくまであるはずがない。
きっといいところなのだ。いくぞ。ぼくは、かならず、いくぞ。
そして、あまい、おいしい、きゃらめるを、おなかいっぱい、たべるのだ。

あまい、おいしい、きゃらめるを、おなかいっぱい、たべるのだ。


106 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:26:14.94
おい、原文そのまま書いていく気か?

108 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:30:35.31
>>106
これで終わりです。これでもかなり要約しています。
初カキコなんで、至らないところがあったらすみません。

114 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 19:54:39.86
面白かった
この話に関してはあらすじよりもこの書き方のほうが合ってる気がする

115 本当にあった怖い名無し:2013/10/18(金) 20:46:39.12
>>108
面白かった、元の読んでみたくなった
でも次回からは書き終わってから投下していってくれww
終わったのかと思ってレスしようとしたら続いててビックリしたわ

 

心狸学・社怪学 (角川文庫)
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