ホーム » 小説 » 小説/な行 » 夏の葬列(山川方夫)

546 名前:1/2 投稿日:2007/07/27(金) 19:57:12
国語の教科書に載ってた話。うろ覚えのため細部は脚色。

ある寂れた田舎町に、一人の男が訪れた。
実はここはかつて彼が住んでいた土地、しかし忌まわしい記憶のある土地だった。

当時はまだ第二次世界大戦中だった。
生活は大変であったが、彼にはとても仲の良い年上の少女がいて、
毎日の様に一緒に楽しく遊んでいた。

ある日の事。その少女は真っ白なワンピースを着てきた。
戦時中と言う事もあり、まわりはみんな薄汚い色のもんぺを着ている時代である。
彼の目には、まるでお嫁さんのように美しく映った。
「そんな目立つ色の服を着ていたら戦闘機の目印になる。早く着替えて来い」
通りがかった大人の言葉も聞かず、彼はそのままで居るように言った。

その直後、轟音と共に戦闘機が飛来した。
場所は田んぼ道の真ん中。これでは狙い撃ちされてしまう二人は必死で逃げ出した。
しかしすぐに彼は足をもつらせ、その場に倒れてしまった。
それに気付いた少女が引き返し、彼に手を差し伸べる。
その時彼の脳裏に有ったのは、ただただ彼女の白いワンピースだった。
―戦 闘 機 の 標 的 に な る―
次の瞬間、彼は少女を思い切り突き飛ばした。
驚いた表情のまま倒れる少女、そして直後に降り注ぐ銃弾。
少女の体が跳ねる。赤く染まるワンピース。

その後、少女は病院に担ぎ込まれたが、彼はすぐに引っ越してしまったのでどうなったのか知らない。
だが、あの赤く染まったワンピースが彼の脳裏から離れる事は無かった。


547 名前:2/2 投稿日:2007/07/27(金) 19:58:46
そんな忌まわしい記憶のある町であったので、すぐに帰ろうかとも考えた。
しかし、何故か彼の足は町の外れへと向かっていく。

少し歩くとすぐに懐かしい風景へと変わった。左右には田んぼが広がる。
その道の向こうから、葬儀の行列が歩いてくるのが見えた。
彼は道の端へ避け、その列が通り過ぎるのを待つ。

やがて列が近づき、先頭の人間が持つ遺影を見て彼は目を見張った。
その白黒写真には中年の女性が写っている。
あの懐かしい面影が残った少女の、年を重ねた顔が。

『あの時、少女は死ななかったのだ。あれから何十年も生き、そして死んだのだ!』

その瞬間、彼の背に重く圧し掛かっていた罪悪感が霧散した。
彼がした事が消え去る訳ではないが、少女を殺してしまった訳ではないのだ。
自分を苦しめた悪夢も、もう見ることは無いだろう。

町へ降り立った時とは比べ物にならないくらい明るくなった気持ちから、
彼は葬列の後を離れて歩いていた少年に何気なく尋ねた。

「あの人、まだ若いみたいだけど。何故亡くなったの?」
少年は不思議そうな顔で応える。
「本当はもっとお婆ちゃんなんだよ。ずっと昔、戦争で娘さんが死んでしまってから
 気がおかしくなっちゃって写真があれしかないんだ」

彼はただ少年が列に着いていく後姿を見送った。
なんと言う事だ。長年自分を苦しめてきた罪悪感がなくなったと思った瞬間、
新たにもう一つの罪を伴って再び自分の上に圧し掛かってしまった。
彼が狂わせてしまったもう一つの人生を。

彼はまるで重い荷物を抱えるかのように重い足取りで、駅へと向かった。おわり。


550 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/27(金) 20:11:27
>>547-8
夏の葬列ですね
私がかなり好きな山川方夫の短編です。ヒロ子さん饅頭一緒に貰いに行こう!て優しいんですよね…

553 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/07/27(金) 20:22:06
>>546
宮島の話だったよね。
聖なる土地ってことで、島にお墓作れない。
お墓がある土地なら、簡単に確認出来たかもしれないのに。

お墓を確認する勇気もなかったかもだけど・・
お墓があって、花くらい供えてたら後味がこれほど
悪くなかったかも。

 

夏の葬列 (集英社文庫)
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